「勝利への航路ーインカレ篇」
本シリーズは、インカレ(全日本大学選手権)ーーすなわち日本の大学生オアズパーソンの頂点を決める大会ーーに向け、日々想像を絶するトレーニングに励む選手・マネージャーたちに、独自のこだわりやインカレにかける熱い想いを語ってもらう企画である。
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第1弾は、昨年度インカレ付きフォア6位、今年度全日本なしペア銀メダルの成績を納め、まさに破竹の勢いで成長を遂げている一橋大学女子部の主将:西尾友伽(Tomoka Nishio)とCox:小塚祐里奈(Yurina Kozuka)の2人である。突然の依頼にも関わらず、練習とMTGの間の食事の時間を割いて快くインタビューに応じてくれた。(取材日:2019年8月初旬)
コギカジ(以下、コ):本日はよろしくお願いします!
まずは、基本的な情報から伺っていきたいのですが、一橋女子部の一日の流れを、詳しめにお願いします。
小塚(以下、小):朝5時のマーキュリー(朝礼)で1日が始まります。6時くらいから乗艇を開始して、2時間ほど練習をします。その後はシャワー、ご飯を食べて、学校へ。9時半ごろに学校に着く感じですね。
西尾(以下、西):そこから16時くらいまでは各々授業だったり昼寝したりって感じです。そして16時半〜17時くらいから午後練のアップが始まります。
女子は午後のメニューとしてはエルゴやウェイトが多いですね。
遅くても20時には練習を終え、風呂、食事ののち21時半に消灯です。
ちなみに勉強できる部屋は消灯後も一応解放しています。
コ:なるほど。噂で聞いたのですが、新人は朝3時くらいから出艇しているというのは本当ですか?
小:それは本当です。出艇数が少ないのでのびのび練習でき安全面でもリスクが低い、という理由でその制度を導入しています。ただ空には星が出てますね。笑
コ:星の下漕ぐなんてなんだか聞こえはロマンチックですが、朝の3時と聞くと、、、笑
でも、とても合理的ですね。
目次
ーー今年のスローガンは、「シンカ」。
コ:今年度、女子部で特に定めているスローガンはありますか?
西&小:女子部で特にっていうのはないですね。
西:ただ男子部女子部関係なく、チームとしてスローガンは決めています。
今年のスローガンは「シンカ」です。この「シンカ」には4つの意味が込められています。
「進化」:文字通り進化していくこと。
「深化」:こちらも文字通り、技術や考えを深めていくこと。
「真赤」:今シーズン「ポンドを真っ赤に染めてやる」という意志。
「真価」:昨年の結果がマグレではないことを示さなければならない。
です。
コ:おおおお!凄いですね。キャッチーだし全てにきちんと意味が込められている。
このスローガンはチームとしてどう扱われているんですか?
小:スローガンは代替わりの時に決め、この1年の大きなテーマとして掲げます。決起会の時などに改めて確認したりもしますし、あとこのポロシャツもスローガンと掛けて、真っ赤なデザインにしたりして。随所にこのスローガンが滲み出るようになっています。
コ:スローガンの良さは?
小:去年は「心踊る挑戦」でした。それまでは割と固い印象の言葉が多かったんですが、キャッチーさと楽しさを織り交ぜたこのスローガンによって様々な効果があったと思います。スローガンの良さはそこにある。今年もそれを継承すべく、「シンカ」というスローガンにしました。
西:これがよかったかどうかはシーズンが終わってからわかることなので、これからですね。
食事中にインタビューに応じてくれた二人。
ーー「国立大最強」の秘密に迫る。
コ:ところで、国立大ってゼロから始める人が多い中で、一橋は男子も女子も成果を上げていますよね。それも国立大最強レベルに。他の大学と比べる機会がないと思うので少し答えにくいかもですが、一橋で特に取り組んでいることとか、意識していることがあれば教えてください。
小:技術や体力で私立大学と差があることは事実なので、いかに効率的に舟を進めるか、ということに頭を使っています。その一環として、「ボートの動作を統一させる」ことに特に取り組んでいますね。
コ:具体的には何をしてるんですか?
西:エルゴを使って出力の出し方を統一していたり、体の使い方を身体構造の見地から分析し、フィードバックを行ったりすることで動きを統一させています。実はボディコントロールコーチの方に来ていただいているんですよ。「こうしたほうがいいよ」と言われた時に「なぜこうしたほうがいいのか」を選手みなが言語化できる状態を目指しています。
コ:それ、めちゃくちゃ大事ですよね。ボートって往々にして擬音語でコーチングされることとか、抽象的な言葉でフィードバックしあう現状があると思うんですよ。そこに切り込んで、学問的見地から絶対となる原理の元きちんと同じ言葉で語れるようにするっていうのは本当に大事だし求められていることですよね。
西:それもあって「言語化すること」はクルーの中でも大切にしていることです。
またそういった頭を使う部分に加えて、もちろん他大学に負けないくらいの練習量をこなすことも大切にしています。
あと、本当にありがたいことなんですが、OBOG の方々がたくさん支援してくださっているのも大きいです。それで備品を揃えたり必要な設備に投資したりできている。おかげさまで他の大学にも羨ましがられるほどの環境を揃えることができ、より効率的な練習に励むことができています。
コ:OBOGが金銭面で支援してくださる部分は伝統のある大学でも割と聞く話ではありますよね。
金銭面以外ではどのように関わってくださっているんですか?はたから見ると凄く健全な関係を築かれているように見えるんですよね、一橋さんは特に。
西:ハリーポッターを想像してもらうとわかりやすいかもですが、一橋ではH組、C組、S組という縦割りの組分けがあるんです。そこに現役からOBOGまで全員が割り振られていて。その組ごとの繋がりが非常に強い。そこで一橋としての団結力を確認できている部分は多分にあります。例えば、冬には組ごとの対抗レースがあったり、年初めにはスタート会といってOBOGの方とご飯を食べる会があるんです。レースの前にも激励会があります。
コ:OBOGさんと接する機会がめちゃくちゃ多いんですね。確かに団結力が強まりそうだ。。
西:就活の時のOBOG訪問も快く引き受けてくださるんですよね。
コ:それは心強いですね。そしてそうしてたくさん関われるイベントがあることは、OBOGさんたちが戻って来やすい環境が作られているってことでもありますよね。
ーー「一橋大学端艇部」という一つの組織。
コ:一橋の女子部員の人数は?
小:1年生を入れると選手は15人います。
マネージャーを入れると男女比はほぼ1:1です。
コ:おお。。なかなか多いですね。強さの秘訣はここにもある気がします。
女子が入部するのって、特に国立の大学だとハードルが高い印象があるんですが、一橋として特に取り組んでいることってありますか?
西:新歓の時に工夫していることとしては、男子部はPVなどを見せて「カッコ良さ」を全面に押し出した勧誘を行っているのに対して、女子はそもそも「日本一」とか「ボートのカッコ良さ」に対して感度が低いのでそういう方向性では行っていないです。ほとんどの女子部員は家族のようなアットホームな雰囲気に惹かれ、「その一員になりたい」と思って入部しており、新入生に対してもそこを突くイメージですね。その上で運動が好きな子は漕手に、マネをしたい子はマネに、という感じです。
コ:なるほど。ただ厳しいことを聞くようですが、そういう「雰囲気のよさ」に憧れて入部した子は往々にしてやめていくという現実もあると思うのですが。
西:そこは「他のみんなも頑張っているから」「一緒に頑張ろう」という助け合いの雰囲気を醸成することでどうにかなっています。そもそも「ボートを好きになる」って時間がかかると思うんです。特に1年の冬場とか、「なんでこんなひたすらUTやるんだろう」とか考えてしまったり、大会もないのでモチベーションが上がらなかったりしてやめちゃう人が増える時期ですが、弊部ではその「助け合いの精神」がうまく働いて辞める人がそんなにいないんです。
小:実は私たちが入部した頃(3年前)は、正直環境としてはよくなかった。男子と同じ練習メニューで、同じ距離を漕いでました。そこで、2年前に新しい女子部コーチを招聘したんです。その方が”女子にあった練習メニュー”を組んでくださるようになって。もともとは男子と同じ距離を漕げば強くなるだろうという考えのもと「ガムシャラに漕ぐ」という根性論めいたものが大前提としてあったんですが、目的からブレイクダウンして考え出されたバリエーションに富んだ練習メニューが組まれるようになって、かつてあった理不尽さも無くなり、自分たちで考えて楽しんで練習できるようになったんです。
コ:なるほど・・・(そりゃ強くなるわけだ、、、)
選手たちの目標設定シート。壁に貼り出され、常に確認することができる。
コ:男子部との関わり方はどんな感じですか?
西:コーチが変わる前までは、ずっと男子部と同じ活動をしていたのでそもそも一緒でした。変わってからは男子部とは全然違うメニューになり、オフの時期も違う、なんてこともあります。でもやっぱり、チームとして目指しているところはインカレで日本一を獲るというところで一致しているし、男子部が成績が良い時もあれば逆の時もあって、そこでは刺激しあうライバルのような意識もある。(今年全日本で6年ぶりにメダルを獲得したように)女子部が強くなってきたことも相まって、真に切磋琢磨できる関係になってきたと言えます。
あとは一緒に住んでいることも大きいかな、と。他の大学さんでは女子部は別の寮に別れていたりするけど一橋は全て同じ施設。練習以外のところでも和気あいあいとボートの話もそれ以外の話もすることができるので、そこはうちの強みだと思います。
コ:男子部をライバル視して切磋琢磨できる環境っていうのは本当になかなかないと思います。一橋の強さの秘訣かもしれませんね。
ーー「納得感を持った」選択を。
コ:突然ですが、一橋の武器は?
西:コンスタント力には自信がありますね。冬場、他の大学よりも圧倒的に漕ぎこんでいるという事実が、その自信に繋がっていると思います。
コ:ちなみにどのくらい漕いでたんですか?
西:(女子部でも)1日で30Km以上漕ぐことは当たり前でしたね。
コ:いわゆる「陸トレ」はそんなに取り組んでいなかったということですか?
西:そうですね。エルゴやウェイトは週2回程度で、とにかく漕ぐことを意識してました。あ、ちなみに去年まではエルゴは週1回だったんですけど今年から2回に変えたんですよね。
コ:ちなみにそのエルゴのメニューは?
小:レート24−26くらいで長い距離漕ぐメニュー(60minや6000m)と、さらに負荷の高いメニュー(ATペースで4000m×3など)をやってます。
コ:なるほど。ありがとうございます。
一つ気になったのは、「エルゴの回数を増やす」ためにどういうプロセスを経たのか、という部分です。詳しく教えていただけますか?
小:コーチと私たちの距離が非常に近くて。密接にコミュニケーションを取ることができている。おかげでコーチも選手一人ひとりの状態を把握できているんですよね。そこでコーチが「練習をこうするといいんじゃないか」と提案してくださり、私たちも納得感を持ってそれを受け入れることができている。
西:「納得感を持って」という部分は特に大事にしている部分ですね。
コ:相互理解の上に成り立つ納得感は組織において非常に重要ですよね。さすがです。
ちなみに、そんな中で一番しんどいメニューは何ですか?
西:「エボリューションエルゴ」です。
2000mをコンスタントペースで漕いだ後、30minレストして、4000m×2をやるってメニューで。
コ:うぉぉお。。(声にならない)
あ、「エボリューション」とスローガンの「シンカ」が掛かっていると。
西:そういうことです笑。
小:想いとしては、2000への恐怖心を減らすというのもありますね。
西:あと、男子は年に数回しか2000トライアルをしなくて、ある種神聖視されてるんですが、女子は多い時だと月に3回とかのペースで引いていて。そういう部分でも恐怖心を減らすことを考えている感じです。
ーー悲願のインカレ優勝へ。
コ:今期の目標を教えてください。
西:インカレ付きフォアで優勝です。これまでずっと5年くらいは最終日まで残れないような状態だったんですが、コーチを変えたこともあって昨年度はインカレで6位を獲ることができました。また今年の全日本ではなしペアで2位までたどり着きました。
コ:個人的な意見かもしれないのですが、日本の女子選手たちはスカル種目に注力しているイメージがありましたが、一橋の女子部はスイープに力を入れていると。
西:そうですね。特に付きフォアは去年から新しく女子種目になって。スカル種目は高校から続けている選手たちが上位を占めており、そこで勝負するのは得策ではないと考えました。スイープはみな大学から始めているため、(技術的な)レベルの差がそこまでないと考え、付きフォアで初代王者を目指そうということで、昨年度から取り組み始めたという背景があります。今年は去年のリベンジです。
コ:今は付きフォアに二人とも乗っている?
西&小:はい!
コ:調子はどうですか?
西:漕手の半分が2年生なので伸び代はまだまだたくさんあると考えています。ただ去年に比べても、いや、ここ10年間でみても、エルゴ・漕ぎのレベルは格段に上がっている。現状としてはまだまだですが、かなりワクワクしています!
コ:期待大ですね。
では、スバリ、ライバル校は?
西:絶対に勝たないといけない相手は「立命館大学」です。全日本のペアでも、一橋はトップの二人を乗せて臨んだんですが、日本代表選手を擁する立命館に敗れてしまった。スタートで差をつけられて、そのまま負けてしまったんです。
私たちが彼女たちをライバルというのは少しおこがましい気持ちもあるけれど、去年の付きフォアでも優勝している立命館は絶対に倒さなければならない相手なんです。常に意識しています。
コ:確かに立命館はスイープだと一強という感じがありますよね。ぜひそこに一矢報いてくれることを期待しています!
(もちろん、立命館のみなさんのことも応援しています!良いレースになりそうですね。)
コ:それでは、最後に一言、よろしくお願いします。
西:私大だけが勝つのは面白くないなと。国立でも勝てることを示したい。
小:常強一橋の時代を早く作りたいです。
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力強い言葉で締めくくられた今回のインタビュー。
一橋女子部の躍進の秘密が明らかになったのではないでしょうか。
「言語化」、「納得感」、「シンカ」。
重要なワードがたくさん出て来ました。
取材陣も、艇庫内の和気あいあいとした中に潜む勝利への静かな闘志をひしひしと感じ、現役時代さながらに熱くインタビューをさせていただきました。
今年のインカレ、皆さんも女子スイープ種目に熱い視線をお願いします!
それでは、第2弾でお会いしましょう。
あたらめまして、一橋大学女子部、西尾さん、小塚さん、ご協力ありがとうございました!(N)
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