もし、あのとき〜コロナ禍と大学スポーツの今(⑤富山国際大学ボート部)

「コロナ禍と大学スポーツの今」として、それぞれの大学ボート部の現状や、コロナ禍での工夫などを伝えるシリーズ。第4回の金沢大学編 『失意と決意』に続き、第5回は富山国際大学ボート部を取材させていただいた。

勝ちと負け

決勝を2着でゴールした瞬間、ふたりとも悔しさをあらわにした。その瞬間、富山国際大学はインカレ連覇を達成した。1着はアイリスオーヤマのダブルだった。

桟橋に艇をつけてみんなから「おめでとう」と言ってもらって初めて気がつく。そうか、2着でゴールしたけどインカレでは優勝だ。それに思い至り自然と表情も和らいでいく。

去年インカレで優勝してから王者の背中を必死に追ってきた。その背中が今日も最後まで見えなかったのは悔しいが、同時にインカレ連覇も達成した。
「アイリスさんに勝てなかったのはやはり悔しいです」
木村さんは勝ちと負けを同時に体験し、優勝後のインタビューでも笑顔ながら悔しさを述べた。

2021年は新型コロナウイルスの影響で、インカレと全日本選手権が併催される異例の大会となった。

総合力へのこだわり

昨年、ダブルスカルでインカレ優勝した木村さん。主将を務める今大会では「総合優勝」という目標を掲げていた。シーズン中盤までは、木村さんはクォドに、柘植さんはダブルに分かれて乗ることで、チームとしての力をつけることに取り組んだ。
8月に去年の優勝コンビで再度ダブルを結成してからも、他艇と並べることでチーム全体として強くなることに尽力したという。

富山国際大学では、チームで強くなるためのある文化があった。

木村さん
「自主性をすごく大切にしています。僕たちのチームでは自分自身に今足りないものは何なのかを考える文化があります。練習メニューも自分たちで考えてきました。試合直前だけは監督からメニューを頂いたりもするのですが、その内容も自分たちで噛み砕いて、必要に応じて微調整しています。単に与えられたメニューをこなすだけでなく、常にその意味を考えながら行うようにしていました」

また特に個人では、「基礎と客観性」を大切にしているとのことだ。

木村さん
「自分が特に練習で大切にしているのはドリル練習です。基礎的なひとつひとつの動きを作っていくことが、スピードにつながると思っています。キャッチやフィニッシュなど部分的に集中する点を決めて理想の漕ぎを固めていきます。


また課題を見つけるときは客観性を大切にしていて、マネージャーが撮影してくれる映像を理想の漕ぎと比較しています。ボートの上でも客観的に自分を見れるように、”艇がどういう風に動いているか?”ということを指標にするようにしています。『自分がこう動いているから艇もこう動いているはず』という指標はどうしても主観が入ってズレやすいので、なるべく客観的な指標で良し悪しが判断できるよう心がけています」

チームとして、そして個人としてもひと回り成長し、10月末のインカレ兼全日本選手権に挑んだ。

追ってきた背中

木村さん
「予選では1000mまでアイリスさんを近くに見ながら漕ぐことができました。途中、差を詰めることができたタイミングもあり、自分たちでもここぞという一本の伸びでは対抗できるのではないかという手応えも少し感じることができました」

敗復を勝ち上がりむかえた準決勝では、1000mまでにA決勝進出を手中に収める展開を作った。後半は決勝で勝つために体力を温存しリラックスした漕ぎを意識したという。
そして、1年間目標にしてきたアイリスオーヤマのダブルと再び決勝の舞台で闘った。

しかし、最後までその背中を見て漕ぐことは叶わなかった。

木村さん
「やっぱり強かったです。試合前はアイリスさんはまずスタートがとても速いので、最初からしっかり着いていくことを念頭に置いていました。そして前に出られるタイミングがあれば、そのチャンスを狙っていこうと話していました。でも実際に決勝で並べてみて感じたのは、全ての部分で相手の方がパフォーマンスが高いということでした。完敗だなと感じました。ゴール後はふたりとも、悔しさが出てしまいました」

2020,2021とダブルでインカレ連覇を達成した木村さんは、来年から社会人ボート選手として競技を続けるとのこと。二度目のインカレ優勝を飾って間もない。しかし今後の意気込みを語る木村さんの表情は、既に次の高みを目指す挑戦者のものだった。そして同時にチーム内には、その木村さんの背中を追う後輩の姿もあった。

決勝のレースにて(S:木村 B:柘植)

受け継がれる想い

『総合優勝』そして『アイリスオーヤマのダブルに勝つ』という目標を本気で追いかける木村さんの姿勢はチームにも伝わっていた。

「木村さんは、背中で引っ張るタイプで、僕たちも自然とついていこうと思える主将でした。」

そう語ってくれた長谷川さんは、今回の大会でペアで見事インカレ優勝を果たした。
長谷川さんと直田さんのペアは、今大会が2000mのレース初挑戦。決勝では予選、準決勝の反省を活かしレースプランを修正して臨んだ。そこにも富山国際の『自分たちで考える文化』が生かされているように感じた。

長谷川さん
「予選と準決勝ではスタートでスピードに乗ることが出来ず、後半ようやく自分たちの漕ぎができるという展開でした。コンスタントのレートも30〜32と少し低調でした。その反省を活かして決勝ではスタートダッシュを長めにとった結果、スピードに乗ることができレートも34くらいをキープしていくことが出来ました」

修正が功を奏し、決勝のレースでは好スタートを切ったが、大学勢では東北大学に先行される展開に。それでも練習から続けてきたという”自分たちの良い時の漕ぎを継続する” ということに集中した。

長谷川さん
「漕いでいる途中では、とにかく自分たちのベストな漕ぎをすることだけ考えていました。リードはされていましたが、”あとはラストスパートに自分に託そう”と自分を客観視していたのを覚えています。1250mくらいから少しずつ東北大学が視野に入ってきましたが、相手も強くなかなか差し切ることができませんでした。ラストでは”ここで負けたら絶対後悔する”という気持ちで、とにかく夢中で漕いでいました」

最後まで接戦だったが、1800m付近で東北大学を捉え、見事優勝を飾った。
レースが終わっても優勝した実感はなかなか湧いてこず、「(実感が湧いたのは)富山に帰ってきてから少しずつという感じでした」と語った。

決勝レース ゴール直後 (S:直田 B:長谷川)

そして長谷川さんは早くも最高学年として来年を見据えている。先日チーム全体でもミーティングをした。今年も挑むのは先輩たちの代から受け継ぎ掲げた、総合優勝という目標だ。

長谷川さん
「来シーズンこそインカレで総合優勝したいという想いを持っています。そのためにどうやってチームとしての総合力をつけていくのかを今考えているところです。自分はずっとスイープを漕いできているので、スカルと同じくらいスイープ種目でも存在感を出していけたらと思っています。

具体的なエントリー艇種などはまだまだ決まっていないのですが、今年先輩たちが掲げていた総合優勝を達成できるように、チームを引っ張っていきたいと思います」

今年飛躍を遂げた富山国際大学。今後の活躍にもぜひ注目したい。

2022年シーズン 新体制を支える幹部の皆さん

もし、あのとき

最後に富山国際大学のチームとしての魅力を語っていただいた。
木村さんは少し考えた後、”実は高校まででボートはやめようと思っていました”と教えてくれた。

木村さん
「実は高校まででボートはやめてしまおうと思っていました。理由は色々あるのですが、ボートを楽しめない自分がいて『部活はもういいかな』というのが正直な心境でした。でも当時いろんな方から木村はボート続けた方がいいよと言ってもらっていて、その中で富山国際を紹介していただくという縁に恵まれました。

そしてこの環境でボートを続けていくうちに、また心からボートを楽しめるようになってきました。
練習の設備もすごく整っているし、指導者の方も手厚くサポートしてくれます。そして何より部員同士の関係でも『日常は楽しく、練習はしっかり』というように接することができるのも自分としては好きな点です。4年間この環境に身を置いたことで、自分自身も成長を実感しています。

もし、迷っていたあのときやめてしまっていたら、この経験も次の夢もなかったと思うので、自分のように高校の部活で心が折れかけている人がいれば、富山国際大学にきてもう一度ボートに挑戦してみて欲しいです。高校までの部活とはまた違った雰囲気でボートと向き合うことができると思います」

そして木村さんは社会人になってからは、今治造船でボートを続ける。来シーズンで引退予定の「岡部選手の最後の花道を飾りたい」というのが次の夢だという。

木村さん
「今治造船の主将である岡部さんが来シーズンで引退ということもあり、クォドで日本一になって引退の花道を飾りたいと思っています。それが次の目標です。

そして今治造船は少数精鋭が強みのチームでもあるので、将来的には小艇で結果を出していくことも重要になってくると思います。やはり最終的には”アイリスオーヤマのダブル”という存在が、今後も自分の目標、ライバルになってくるんじゃないかと思っています」

4年前はボート競技自体を離れようと思っていた木村さん。自身でも振り返ったように、もし、あのときボートをやめてしまっていたら、社会人ボート選手としての夢もなかっただろうし、後輩たちが引き継ぐ『総合優勝』という夢もなかっただろう。

大学に入ればいろんな選択肢がある。決してボートを続けるだけが正解ではないだろう。
ただ、いちボートファンである筆者の立場から申し上げると、一人でも多くの高校生がボートを続けてくれると嬉しく思う。
一度きりの大学生活。もし迷っていおられる方がいれば、一歩踏み出してみるのはどうだろうか。迷いを振り切った分だけ、きっと充実した競技生活を送られることと思う。

決断した今を思い出し、「もし、あのとき」と感慨深く振り返る日もきっと来るだろう。

(取材・編集 原田)

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