勝利への航路ー2020 #3 同志社大学 番外編

2020シーズンは開幕するかと思われたが、
コロナウイルスの蔓延により各レースは中止へ。
そんな環境の中でも、各大学は次なる熱き戦いに備え、
その牙を研ぎ始めている。
「2020年シーズンを如何なるものにするか」
その取り組みに迫るーー

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2019年インカレを終え、最高の笑顔での集合写真:同志社大学ボート部

前回インタビュー取材を行った同志社大学についての番外編。“部のブレイン”であった山口さん(2016~2019)にお話を伺った。彼がボート部で過ごした軌跡を追うことで、同大学の近年の躍進の理由に迫る。やはり感じたのは「組織力」。その言葉の裏にある、変革の4年間を2つのターニングポイントから見ていこう。

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今回リモートにてお話を伺った山口弘人さん

【山口さんの組織運営 実例】
・シーズンの一貫した戦略立案
・コーチMTGの創設
・コーチング体制の変革
・PV関連(モチベーションup関連)
・新人育成制度(長期的ビジョンの策定)
・選考プロセスの見直し+COXの選考制度創設
・エルゴメニュー結果等のデータ化
・1on1制度
・部内のプロジェクト化、中組織化(〜班)

目次

  1. ■入部のきっかけ
  2. ■組織課題と運営について
  3. ■2019年インカレは、現時点での完成形であった
  4. ■COX交流会について
  5. ■ボート界へのメッセージ
  6. ■筆者後記

■入部のきっかけ

コギカジ:以下コ)本日はよろしくお願いします。山口さんは同志社大学ボート部で戦略立案などの組織運営に関わったキーパーソンだと認識しています。早速ですが、山口さんとボートとの出会いはどのようなものだったのでしょうか。

山口さん:以下山)決め手は人でしたね。
福井県出身で、新聞などで福井選抜の選手が入賞した記事などは見ていたので、なんとなくボート競技のことは知っていましたが、まさか大学でボート部に入部するとは夢にも思いませんでした。
 新歓でボート部の先輩の人柄や「日本一」を目指しているという事を知って、魅力を感じました。僕は何かを始めるには4つの理由があると考えています。
1つ目はコンテンツへの魅力、2つ目は人の魅力、3つ目はその組織の文化への魅力、4つ目は組織の制度や待遇です。僕は特に2つ目の“人”に魅力を感じて入部しました。
 加えて、実は第一志望ではなかった大学への進学だったので、何か4年間で「やり切ったと思える事」や「青春」を謳歌したかった思いもありましたね。ボート部にはそうした僕のなりたい人物像に当てはまる人がいると感じたんです。

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楽しむ事にも全力の同志社

■組織課題と運営について

コ)山口さんが実施した組織運営について伺わせてください。

山)部の運営に本格的に関わりだしたのは3回生からでした。大きくはチームの一貫した戦略立案を任されたのですが、その細かい手法(コーチMTGの創設や1on1制度など多数)においても考え実行しました。
 僕の入部した年(2016年)というのは、同志社大学ボート部として、史上初めて総部員数が100人を超えたことに加えて、武田監督が複数の外部コーチをお招きし、内外共に非常に組織として大きくなってきていました。当時の上回生は運営に苦労したと思います。正直組織が大きく変わろうとしていた節目だったので、カオスな雰囲気さえありました。そんな時代に入部したので、入部当初から“部内コミュニケーション“についての課題感は強く抱いていました。なので、僕が部の運営として行ったことを一言で言えば、”コミュニケーションの円滑化・体系化“なんです。

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チームの戦略も自ら考える

コ)以前のインタビューでも伺ったのですが、同志社大の強みは「組織力」だと感じています。山口さんが感じた「組織力」に関する部内での変化は、どのようなものだったのでしょうか。

山)たしかに「組織力」は強みですね。あえて部内での変化を説明するならば、象徴的な出来事を2点挙げながら説明してみようと思います。1つ目が2017年の櫻間先輩のM1X優勝、もう1点が2018年のM8+,M4xが関西選手権優勝、M4+が準優勝をひっさげて、インカレで結果を残した(M8+ 7位、M4+ 5位、M4x 準優勝)ことですね。


■2019年インカレは、現時点での完成形であった

山)1つ目の2017年の櫻間先輩の優勝は、当時の部内でも「マジで勝っちゃったよ!」みたいな少し他人事感があったことを覚えています。勿論勝つことは信じていましたが、「チームの力」と「櫻間先輩個人の力」がイコールになっていなかったんです。他の地方大学でもたまに起きる「黄金世代」もしくは「突出した個人」がそのポテンシャルを発揮した、という感じです。ですが、チームの力がまだまだこれからが伸びしろ、というタイミングで櫻間先輩が優勝し、「やればできるんだ!」という意識が他の漕手に伝播したと思います。この1つ目の出来事でチームの視座は明らかに高まりました。

コ)僕も櫻間選手のM1X決勝レースを生で見ていましたが圧巻のレースでした!
 ちょっと脱線した質問なのですが、櫻間さんは自身最後のインカレはM8+で出場していましたが、そこにはどのような思いや意図があったがご存知ですか?

山)これは櫻間先輩きっての「同志社として優勝するんだ」という思いがあったからです。彼の世代は新人時代の加古川レガッタで、京大エイトと僅差で競り負けたという共通の苦い思い出があります。なので、4年目に新人時代の無念を晴らすという意味において、強いこだわりがあったのだと思いますね。

コ)彼自身がM8+で勝つことに強い思いがあったと分かりました。それでは、話を戻して変革のターニングポイントの2点目はどのようなものだったのでしょうか。

山)2つ目は、2018年です。M8+,M4xが関西選手権優勝、M4+が準優勝をひっさげて、インカレで結果を残した(M8+ 7位、M4+ 5位、M4x 準優勝)年。この3艇はいい意味でお互いをライバル意識した三つ巴でした。

 要素として、個人ではなくクルーやチームの一体感を作り上げてインカレに望めたのは大きかったですね。当時の石田主将をはじめとした4回生に下級生がついていった結果だと思います。花形3種目が結果を残したことで同志社としての勝ち方が浮かび上がってきたように感じます。2018年のインカレによって男子の勢いは増し、女子の反骨心が醸成されていきました。

 そんな2つのターニングポイントを経て、監督・コーチ・OBOG会・選手・サポート・保護者など、あらゆる方々のご協力と様々な取り組みが結果として2019年に現れ始めました。

 2019年はインカレ最終日進出人数が最多だったこと(4+、4-はA決勝) 、関西選手権も含めて女子(W2x、W4x+)が結果を出したこと、アジア大会にも出場したM2xをはじめとした小艇で結果が出たことで、チーム全体のレベルがもう1段階上がったなと感じました。

 なので、同じ優勝とはいっても、2019年のM4+のインカレ優勝は、2017年の櫻間先輩の優勝とは別物です。個人の力+組織力の賜物で、いわば現時点での完成形だと思っています。僕の取り組みは組織力をいかに上げるかに注力してきたので、直接的に効果があったのかはわかりませんが、結果が出たのは嬉しかったですね。

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感動を部員全員で共有する表彰式

■COX交流会について

コ)私の後輩も参加していると伺って興味があるのですが、山口さんが主催している「COX交流会」とはどのような経緯で始まり、どのような内容のものでしょうか。

山)始まるきっかけになったのは、櫻間先輩がNTT東日本(以下NTT)へ入部したことで、NTTのCOXである佐々野さんと繋がれたことでした。それで佐々野さんが、母校である東北大で勉強会をするというのでお邪魔しました。その場には僕以外の他校のCOXも来ていて、とても刺激になりました。この体験を基に、“COX同士の輪を広げたい“という気持ちが芽生え、そこにコロナ禍も重なり、「であればオンラインで集まろう!」ということで行動に移しました。今ではLINEグループに40名程の全国のCOX仲間が集まっています。
 直近では、戸田中央総合病院ローイングクラブ(以下:戸田中)のCOX立田さんと僕とで対談を行いました。主な話の内容は、立田さんが実際に出られたレースへの解説です。「このタイミングでアクションを入れたわけ」や、「この時めちゃくちゃ焦っていた」というような当事者ならではのお話から、コール内容についても伺ったりしました。僕はCOXこそ最大限ボートを楽しめるポジションだと考えている(もちろん漕手がいなければ艇を進められないのですが)ので、この形式の対談は続けていきたいです。
 今後やりたいのは、インカレの対戦校同士による対談ですね。インカレ決勝で優勝をかけて戦った同士の対談であれば、互いの理解や親睦に繋がりますし、視聴者にとっても高い視座をもつ選手の考えや姿勢を知るきっかけづくりになると思うんです。また、日本のボート界の課題として、他校の選手への交流や理解が足りていないのではないかと思っているので、やる意義があると思います。

コ)確かに対校戦がある大学同士であれば、そうした水上以外の繋がりがあったり、互いに意見交換するような関係性がある印象ですが、インカレ等でしか顔を合わせない大学同士では、コミュニケーションは生まれていないのが実態のような気がします。そういう意味でも、とても魅力的なコンテンツになる可能性を感じますね!

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COXシートの山口さん

■ボート界へのメッセージ

コ)ボート界へのメッセージなどあればぜひ伺ってみたいです!

山)ボート競技がメジャースポーツを目指す必要はないと思うんです。丁寧にボート競技の魅力を伝えることができれば、おのずとファンは増えるのではないでしょうか。どのような視点・切り口でボート競技を楽しめるのか、ファンを広げていけるのかを考えていきたいです。
また卒業してみて改めて実感したのですが、ボート部で過ごすということの魅力は、実社会に近い経験を積めることのような気がします。レースに向けて準備をすること、組織としての在り方を考えること、どれをとっても社会に通じる力ではないでしょうか。その点を次世代に伝えていきたいとも思いますね。

コ)本日はお時間頂きありがとうございました!ぜひインカレ対戦校COXによる「インカレレース裏話(仮)」でもご協力させてください!!

山)はい!ぜひ一緒にボート界を盛り上げていきたいです!本日はありがとうございました!

■筆者後記

 山口さんは組織の変革をど真ん中で感じ、実行してきた人物である。だからこそ、彼の軌跡を追うことで同志社大学ボート部の躍進の理解がまた一歩進んだ気がした。インタビュー中に、「僕自身の戦績は特にない」と謙遜する姿があったが、2019年のM4+優勝に象徴されるような“組織力の勝利“において、彼の影響は計り知れない。これは私の想像だが、優勝クルーに「誰にとっての優勝であったか」を問えば、それは同志社大学、”チーム“の勝利であったと答えるのではないだろうか。そう思えてならない組織像を、山口さんの言葉を通じて垣間見た気がした。(K)

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