「勝利への航路ーインカレ篇」
本シリーズは、インカレ(全日本大学選手権)ーーすなわち日本の大学生オアズパーソンの頂点を決める大会ーーに向け、日々想像を絶するトレーニングに励む選手・マネージャーたちに、独自のこだわりやインカレにかける熱い想いを語ってもらう企画である。
第2弾は、これまで全日本選手権エイトで5回優勝、全日本大学選手権のエイトでは13回の優勝の成績を誇る、中央大学ボート部である。今回は、副将の徳永貴大と、対校Cox兼主務の小島発樹が取材に応じてくれた。戸田の中でも一際離れた場所にポツンと艇庫を構える中央大学ーーーその謎に包まれた強さの秘密に迫った。
【略歴】
徳永貴大 4年 副将
中央大学付属杉並高校→中央大学商学部
第43回全日本大学選手権大会 男子舵手なしクォドルプル 優勝
第45回全日本大学選手権大会 男子エイト 第3位
第97回全日本選手権大会 男子エイト 第4位
第58回全日本新人選手権大会 男子エイト 優勝など、その他多数入賞。
小島発樹 3年 対校Cox兼主務
熊本学園大学付属高校→中央大学法学部
第27回全国高等学校選抜ボート大会 男子舵手付きクォドルプル 第8位
第58回全日本新人選手権大会 男子エイト 優勝
第45回全日本大学選手権大会 男子エイト 第3位
第97回全日本選手権大会 男子エイト 第4位など、その他多数入賞。
目次
ーー中央大学ボート部の1日。
コギカジ(以下、コ):では、早速。一日の流れをお願いします。
徳永(以下、徳):どうぞ(小島さんの方を向いて)
小島(以下、小):え笑 わかりました。
基本クルーごとに時間は任せているんですが、1限がある場合は4時15分に起床して4時45分には岸を蹴ってます。6時15分には揚艇し、クールダウン、お風呂、食事ののち、7時15分の電車に乗って学校に向かう感じですね。なぜこんなに詰まってるかというと、学校が非常に遠いかつ艇庫から駅までも遠いからです。笑
1限がない場合は、6時くらいから練習してます。
徳:例えばシングルスカルとかで学校が午後からの場合は、朝に食事を取ってから9時ごろから練習してますね。
小:基本的に中央は、「ご飯を食べてから練習する」というスタンスなんですよね。休みの時は基本6時ご飯の9時練習という感じです。
午後練は基本的には陸トレを時間が合う人で合わせてやる、って感じです。
大学が遠いので、4限終わりでも帰るのが19時とかなんですよね。
徳:基本的に各自なんで、学校から帰り次第、就活から帰り次第、各自がウェイト、エルゴ、クロストレーニング(有酸素系トレーニング)をやってます。最近だと駅前のジムに契約してる部員もいますね。空調とかの設備もいいですし。
ボディメイクが好きな部員はマシンが使いたいからという理由で通ってますね。笑
コ:なるほど、確かにそういう話は聞きますね。
徳:はい、あと設備的な話だと、中央は宿泊所、艇庫と別に体育館を持っていて、これは戸田の中でも珍しいですね。似たような物を持っているのは日本大学くらいじゃないですかね。
あと、日曜の午後には全員でウェイトサーキットをやって、解散という感じです。月曜がオフなので。
小:あ、あと掃除とか食事準備とかも間に入ってきますよね。
コ:食事の準備も選手がやってるんですね。
徳:そうですね。当番表で管理していて、夜に朝食の仕込みをやり、朝に調理するという感じです。掃除、片付けなども全て自分たちでやっています。マネージャーは基本的にこの合宿所には泊まらないんです。
上級生も含めて全員でやってます。
当番表。
ーー求められる「主体性」。
徳:実は僕が入部した頃は、すごいバチバチの上下関係があって。雑用は全部1年生がやらされていたんです。転機は2015年で、今の監督、スタッフ陣が入ってきて、全学年やった方がいいという方針に変わったんですよね。
小:僕は全然知らないですそのこと。
徳:僕らが最後の世代で。ここで変わったんです。
中央大学はインカレでのエイト優勝回数は2位ですし、創部当初から名門としてずっとやってきて。20何年ほとんどの年でエイトの決勝に駒を進めていた。ただ2008年に敗コロ(敗者復活戦で敗退)して。そこからまた2012年に全日本準優勝するなどしたんですが、僕が入部した2016年度のインカレまでは4年連続でインカレ決勝に行けていない低迷状態にありました。その時期にちょうど、勝てない先輩が日常生活でしかマウント取れなくて、後輩に無理強いをしてきていたんですね。僕なんかほぼ寝れていなかった。
今となっては笑い話ですけどね。
コ:他の大学でもそういう噂を聞くことはありますね、、、
徳:今はだいぶ変わってると思いますが、昔の戸田はむちゃくちゃだったらしいですよ笑
そういう意味で中央もだいぶ変わりましたね。
コ:それは成績にもポジティブに影響している?
徳:大きいと思っています。そしてここは僕の代がこだわってきた部分でもある。仲良しこよしではないが、行き過ぎた上下関係を艇上に持ち込むと対等にものが言い合えず、良い練習が行えなくなってしまいますよね。日常生活からいい意味でゆるくやることにしている。結果としてチーム状況にいい影響が出ていると思います。
コ:Coxも先輩後輩関係なくガンガンものを言えていると?
小:そうですね。学年関係なく、言えています、というか、言わないと逆に怒られるくらいです。目の前にアジアチャンピオンの宮浦さんがいた時もありましたけど、関係なく言ってましたね。
大人しくしてると「お前やる気あんのか」と言われる環境です。
徳:理不尽さのない健全な上下関係が築けている。はじめのうちはこちらから意識的に後輩に聞くこともありましたね。
コ:とてもよくわかります。艇上でのコミュニケーションが一番重要ですもんね。
小:監督・コーチももちろんですが、先輩がより親身になって教えてくださってる現状があります。監督・コーチはいい意味で放任な感じなんです。やりたいことは結構なんでもやらせてくれるんですよね。
徳:メニューも僕らが言えばコーチ陣は話し合いの上で柔軟に変更してくれますし、大会のクルーも日常生活を見ている副将の立場ということで僕が進言をして、それが反映されるということもあります。そういう意味では「主体性」というワードは昔から中央で大事にしていて。それが文化として根付いている。
取材に応じてくれたお二人(左:徳永氏、右:小島氏)
ーー経験者集団、中央大学。
コ:中央の選手って全員経験者ですか?
徳:基本そうなります。皆高校でボートを経験していた人です。大学から始める人はいません。スポーツ推薦がほぼ全員なんですが、中央大学附属から上がってきた部員が数人いるって感じです。マネも含めて。
小:僕は実は稀で。一般で入ったんです。別の国立大学でボートをやろうと思ってたんですが、入試でうまくいかずとにかく中央に入って。中央でボートをやる気は最初なかったんですけど、Coxが足りてないと言われてそのまま流されるように入ってしまったんですよね笑
コ:そんな裏話が、、笑
徳:経験者しかいないので、一般生を受け入れる環境が正直ないんですよ。そこは国立大とかと大きく違う点です。
コ:スカウティングはあるんですか?
小:中央はセレクションに力を入れていて。他の大学だと個人に声をかけるイメージだと思うんですけど。でもあんまり高校生には人気ないんですよね、、なんでなんでしょ。。。
徳:正直、高校の全国大会で実績を芳しくあげている選手を多く取れていないのが現状です。
あと、国体に出れないみたいな噂も流れてしまっていて。確かに数年前は大会の日程上難しかったので出れてないのですが、今年は国体にも出ます。
悪い噂はなかなか拭えなくて困ってます。。。
(コ;読者(特に高校生)のみなさん、中央は国体に出ますよ!)
小:あと、高校生合宿ってのも取り組んでます。
全国選抜が終わった高校生とここで一緒に漕いだり生活を共にする機会です。富山とか秋田の高校生も参加してくれました。
コ:そんな取り組みがあったんですね。来年もされる場合はぜひ取材させてください。笑
ーー「中央大学ボート部」という一つの組織。
徳:そう言えば、女子部はインスタをめっちゃ頑張ってますね。男子部のはそんなに人気ないんですが、、、
小:女子部は当番を決めてやってるんです。
コ:確かに女子部のは見たことあります。女子部も最近かなり結果を出してますよね!
徳:クォドで3年連続決勝、去年はペアがインカレ優勝してるので、女子の中でも強豪の地位にいると言っていいでしょう。米澤という日本代表経験者もいますし、今勢いがありますよね。
コ:今年のインカレも期待大ですね。
徳:あと、女子部は中央大学というくくりでは同じなんですが、コーチも違うし泊まってる場所も違うんですよね。ちょっと離れたとこに泊まっています。
コ:じゃあ女子は朝練はもっと大変ですよね。。。
徳:そもそも女子部が始まったのは6年前とかで。なのでここには女子が泊まれる機能がないんですよ。
コ:なるほど、そういうわけですね。
小:あとうちは他大と違って女子部と男子部の馴れ合いみたいなのはほぼないですね。お互いリスペクトを持って接している感じです。
徳;他の大学からしたらあまり想像できないかもです。全然話さないですし笑
小:一緒に寮生活してる大学とは全然違いますね。部内恋愛とかもほぼほぼないですし。
コ:ほぼほぼ?
全員:爆笑
徳:単純にそういう男女の関係のもつれで揉めることとかは全くないです。
コ:真にボートに集中できる環境なんですね。。
小:そこはうちの強みの一つだと思います。
徳:マネージャーについても似た感じです。マネと選手も日本一に向かって一緒にやっていく良き伴走者という感じで。男子部、女子部、マネージャーがそれぞれお互いにプロフェッショナルとして刺激し合いながら日本一に向かっている、いい関係性を築けていると思います。
ーーマネージャーへの信頼。
小:うちのマネージャーはそういう意味でも優秀だと自信を持って言えます。そういえば、今年ドイツに行ったのもマネージャーと僕が全部企画してやりました。
コ:ツイッターでみました。あれ、学生だけでやってたんですね!
小:監督・コーチたちにドイツ行っていいですか?と聞いたら「おー、いいよ!」という感じで。本当にいい意味で放任なんですよね。
コ:それは他大ではなかなかなさそうな光景ですね。さすがという感じです。主体性がそういうところでも磨かれていると。
徳、小;そうですね。
徳:うちのマネは本当に優秀です。あ、去年のアビームとのコラボレガッタもマネが企画段階から参加していたんですよね。
リクルーティングの時点で、質の高い人が集まってくれているのもあります。とりあえず人数を入れてというのではなく、厳選と言ってはなんですが、しっかりと日本一を目指していける人を探して入部してもらっています。全然辞めないですし。僕が見てきた7世代でも辞めたの1人くらいです。それも仕方ない理由でした。
コ:おお、マネもそうなんですね。。あ、当然選手は辞めないですよね。
徳:はい。選手は無いですね。
徳:またはじめの話とかぶる部分ではあるんですが、後輩の面倒見はかなりいい部活になったと思います。選手もそうですし、マネージャーでもそうなんですよね、はたから見てても。後輩マネが先輩マネを尊敬して仕事をしている姿を毎年見ている。そういう文化は本当に根付いていますね。
コ:いわば理想の関係、といった具合ですね。もはや憧れる。。
徳:2つ上にとても尊敬しているマネの先輩がいて。その人が一番神経を使っていたの、いつだと思います?ーー後輩と接する時なんです。そこは僕も参考にしています。怪我とか体調不良の後輩にはできるだけ声をかけるようにしている。
小:後輩としても本当に居心地はいいです。
徳:最近やってる取り組みとしては、アマゾンのほしい物リストを公開して、備品の寄付を募るってのがあります。明治さんがやってるのをみて、マネしたんですよね。おかげで潤っています。
コ:そんな手法があったとは、、、拡散しておきます!
体育館の中の様子。
ーー目指すは、「常勝中央」。
コ:インカレの目標は?
小:そろそろエイトで勝ちたい、、、
なかなか勝ちきれないことが多かったので、、、うん、エイトで優勝したい。ライバルはやっぱ日本大学ですね。海の森のレガッタでも1秒差で負けましたし。
徳:そこは、中央のいつ誰に聞いても「エイトで優勝」って答えると思います。基本的にそれを言い続けているチームだから。直近だと2005年が最後。「エイトで優勝」したい。
コ:力強いお言葉、さすがです。
調子はどうですか?
小:僕がCoxしてきたクルーの中で、最高の状態です。
徳:調子、いいです。エイトに乗って3年目ですけど、1番いいです。今のエイトが1番走ってる。4年の4人、3年の1人の計5人は3年間ずっと一緒に漕いでいるんですよね。そこの経験値が形になってきた。そろそろ勝ちたいです。
あと戸田の雰囲気的にもそろそろ、数年インカレエイトを連覇している日本大学を他の大学が倒すところを見たいんじゃないでしょうか。
コ:ぜひ見てみたい。
徳:ありがとうございます。それと、少し別の軸ではあるんですが、副将として思っていることとしては「常勝中央」を体現することを意識しています。常にエイトでトップチームである定めが中央にはある、と解釈しています。それが中央大学の義務。永続的に強いチームを。今年のエイトだけ勝てばいいと思ってない。
例えば、今年海の森のレガッタが終わった後の2週間くらい、エイトのメンバーと1年生で一緒にクルーを組んで、練習の極意や雰囲気などを直接伝える場を意識的に設けていました。インカレという短期的な目標で見れば、もちろんトップエイトで練習したほうがよかったかも知れないんですが、自分として「常勝中央」を達成するためにコーチに掛け合ったんですよね。
小:中央はずっとそれを意識している。高校のトップ選手がそのまま流れ込む大学に対し、中央はそこまで有名ではない選手が多いという環境上、「大学ではやってやるんだ」という雑草魂的な雰囲気があることも確かです。
徳:日本大学はエイトの8枚みんな何かしらの日本代表を経験しているはずです。逆に中央は名の知れた選手はほぼいない。
昔から「育ての中央」という言葉もあったくらいで。そこは強みですね。それを活かしてじゃないですけど、ずっと強い中央を作りたい。
小:僕も常勝中央を体現したい。その一歩として今年、絶対に勝ちたい。
壁に掲げられた「常勝中央」の力強い文字。
コ:今年、中央のココを見て欲しい!というポイントはありますか?
小:スタートのスプリントの部分は自信ありますね。学生間でのレースで最近は出られたことがない。
徳:うん、俺も出られた記憶はない。ほぼ同じタイムで1Qを入線ということはあるけどね。
あとはラストスパートです。ラスト上げるためのトレーニングをたくさん積んできたのでぜひ期待して見ていて欲しいです。
小:今のクルーの強いところは練習でちゃんと全て出して絞りきれるところですね。本当に信頼できるところです。
徳:確かにそこはいい部分ですね。うちのいいスピリットとして「非科学的」なところがありますね。笑
どれだけ疲れていても、どれだけやる気が上がらなくても練習では死ぬまで出すことを全員が意識できている。そういう雰囲気がある。
コ:最後に一言、いただけますか。
徳:2015年に早稲田大学が日本大学に勝った時、僕も見てたんですが、戸田が湧きましたよね。どこかの大学がインカレ総合優勝13連覇中の日大に勝つというのはボート界においてもインパクトがでかい。それを今年は中央が成し遂げます。
小:僕もボート界をもっと盛り上げていきたいので、各大学の対校エイトといいレースをして勝ちきりたいです。そして、僕はまだ3年なので来年も常勝中央を受け継いでいきたい。
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「主体性」、「プロフェッショナル」、そして、「常勝中央」。
言葉の端々から、部活の範疇を超えた、真のアスリートとしての矜持がにじみ出ていたのではないでしょうか。
お話を伺った1時間の間、取材陣も背筋が伸びる思いでした。
中央大学が怒涛のラストスパートで追い上げ、きっと戸田を湧かせてくれることでしょう。
今年のインカレエイト、大変熱いレースが期待できそうです。
それでは、第2弾、中央大学ボート部の記事はこの辺りで。
取材に協力してくださったお二人、どうもありがとうございました!
次回もお楽しみに!(N)
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