早慶レガッタで勝利した対校エイト(慶應大学ボート部提供)
新型コロナウイルスの影響で去年中止に追い込まれた伝統の一戦「早慶レガッタ」が4月に開催され、対校エイトでは慶應大学が2016年以来の勝利を飾りました。
一方、無観客での大会開催となるなど「コロナ禍」の影響が色濃く残る大会ともなりました。合宿生活を基本とするところも多い大学ボート部ではその影響も大きく、練習方法や新人勧誘にも大きな影響を及ぼしています。
今回コギカジでは、各地の大学ボート部に取材し「コロナ禍と大学スポーツの今」として記事を発信していくことにしました。それぞれの大学が置かれた現状や、乗り越えるために行った工夫、役立ちそうなノウハウも可能な限りお伝えし、部の運営に役立つ情報を発信していければと思っています。
今回は早慶レガッタで勝利を飾った慶應大学ボート部の朝日主将に「コロナ禍とこの一年」について聞きました。
突然部を襲った「コロナ禍」
新型コロナウイルスは「突然」という形で慶應大学ボート部を襲った。練習拠点だった戸田公園の大学寮が使えなくなってしまった。去年の3月末のことだった。
「多くの学生が共同生活を送る寮での生活を続けることは感染リスクが高い」という大学の危機管理上の判断だったという。
突然のコロナ禍によって、部員たちは練習拠点が奪われてしまったのだ。
朝日主将
「3月末で強制退寮となり、寮に『通う』形での練習形態になりました。回数も通常の半分以下となり早慶レガッタの中止も決まりました。私も残念でしたが、当時4年だった先輩はやはり悔しそうで、その姿を見ていました。その頃は部全体が混乱していて、とにかく何をどうすればいいのか分からない、という状況でした」
社会を襲ったコロナ禍は、慶應大学ボート部にとってもこれまでにないほど大きな影響を及ぼしていた。
新人勧誘に苦戦
練習そのものもままならない状況だったが、何より厳しい状況に追い込まれたのが「新人勧誘」だったという。4月の入学シーズンは新人勧誘の季節。特に、スポーツ推薦枠のない慶應大学ボート部では部の存続に関わる重要なイベントで、毎年チームを作って新人勧誘にあたる。
しかしコロナによって通常出来ていた勧誘活動の殆どが出来なくなってしまったという。
朝日主将
「例年ですと、大学内での声かけや試乗会の実施をメインに4月からチームを作って動き出し、平均すると20人弱の新人が入ります。しかし去年は対面での勧誘は禁止、試乗会もできず、リアルに会うことが殆ど出来ない状況になりました。コロナの感染拡大の時期がちょうど勧誘の時期と重なったことで、手も打つことができませんでした」
結果的に去年入った新人は5人と、例年と比べて人数は少ない世代となってしまったという。
寮は5か月後に再開 感染対策は?
結局、寮での宿泊禁止は8月末までおよそ5か月にわたって続くことになった。
入寮が許可されたものの、大学の体育会からは、いくつかの条件を提示された。
その条件は部員全員がPCR検査を受け、陰性であることを確認すること。そして、自宅に帰ると感染リスクが上がるということで、自宅には極力帰宅しないことだった。
「ずっと寮内にい続けなければいけないのは精神的にも厳しいものがあった」と朝日主将は振り返る。
練習継続と感染対策の両立をはかるのは簡単ではなかった。
今も寮内では感染対策として室内を細かくパーテーションで分け、帰宅する際には極力寄り道をしないなどの制限を設けて活動を継続しているのが現状だ。
特に4月に開催された早慶レガッタ前は、緊張感が高かった。
感染者が1人でも出てしまえば大会中止も予想されたからだ。そのため極力寄り道をしないなどの対策に加え、日ごろの手洗いうがい、外から戻ったときには消毒を行うなど選手一人一人の感染対策には特に注意を払っていたという。
そうした中で開催された早慶レガッタで対校エイトは見事、勝利を収めた。連敗が続いていた中での久々の勝利でもあり、喜びもひとしおだった。
早慶レガッタの開催が示すように寮を使えなかった去年の一時期と比べれば徐々に練習環境は元通りに戻りつつある。朝日主将によると、みな前向きに練習に励んでいるという。
しかし、やはりコロナ前と全く同じというわけにはいかない。特に変えなければならなかったのは、去年大きな影響を受けた「新人勧誘」だった。
変わる新人勧誘 「SNS」の積極活用
コロナの感染拡大が続く中、2度目の春を迎えた部は、新人勧誘のやり方を大きく変えた。新人勧誘は部の今後を左右する重要なイベントだからだ。
相変わらず対面での勧誘活動が禁止されているため、勧誘活動の本格的な開始時期を例年より早め、3月から動き出すことにした。
さらに、SNSの活用に力を入れた。
新人勧誘のためのアカウントを作成し、ボート部の魅力を伝えるための様々な企画を作り発信。慶應志木高校など大学の一貫校の「内部生」のボート経験者に早い段階でコンタクトを取り、SNSを活用して熱心に勧誘活動を行った。
その際に、友達も連れてきてもらえるよう「横の繋がり」も重視して勧誘。興味をもってくれた内部生に対し、試乗会を実施した。
当然、試乗会でもマスク着用など、感染対策に気を配らなければならなかった。
そして4月以降はターゲットを「外部生」に切り替える。ここでも大きな武器にしたのがSNSだった。こまめにツイッターをチェックし、関心のありそうな外部生を探してコンタクトを取り、地道な勧誘活動を展開した。
朝日主将
「対面禁止である以上、SNSがやはり主戦場になります。うちの大学は推薦枠がないので、勧誘は非常に重要。新人勧誘チーム中心に、コロナ禍での勧誘方法に知恵を絞りました。やってみないと分からない、ということで新しい勧誘にも挑戦しました」
努力の甲斐もあり「対面禁止」という厳しい条件の中、ことしは16人の新たな仲間が慶應義塾大学体育会端艇部の仲間に加わった。
コロナが「当たり前」になる中で
一部制約はあるものの、練習環境は徐々に元に戻りつつあるという。今は殆ど、コロナ前と同じ感覚でトレーニングが出来るようになりつつあると朝日主将は話す。
また大学ではオンライン授業が殆どとなっているため、寮にいながら授業が受けられるようになった。
寮にいる時間が大幅に増え、部員同士のコミュニケーションがより強まるという「前向き」なことも起きているという。ある意味、コロナが「当たり前」になる中で、新しいスタイルの練習方法が根付き始めているようだ。
取材の最後、朝日主将にこの夏のインカレに向けた意気込みを聞いた。
朝日主将
「コロナであろうとなかろうと、やることは同じだと思っています。慶應大学では近年、エイトでのAファイナルに行くという結果が出せていません。慶應は『日本一』を目標に掲げている部活です。なんとしても結果を出したいと思いますし、後輩にもいい思いをさせてあげたいです」
そこにはコロナという前代未聞の状況の中、大きな影響を受けつつも今置かれている中で最大限の努力を続けている大学生のひたむきな姿があった。
感染対策が引き続き必要な状況の中ではあるが、そういう状況でも明るくひたむきに努力を続けている慶應大学ボート部を引き続き応援していきたい。
情報をお寄せください!
コギカジではコロナ禍で活動が制限される中で、コロナとの上手な付き合い方や新勧の工夫、ノウハウなど参考になるものがあれば随時取り上げていきたいと思っています。
こんないい対策の方法がある!などもし参考になるような情報がございましたらご連絡頂けましたら幸いです。有用なものはHPの中で随時、ご紹介させて頂きたいと思います。
次回は京都大学ボート部の記事となる予定です!
(参考URL)
慶應義塾大学体育会端艇部HP
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