※本記事は「LEGENDs. Vol.1 阿部肇監督」の全3回のうちの第3回です。
目次
1. 「最強」仙台大学の秘密
コ:仙台大学さんは昨年のインカレで総合優勝、アジア選手権でも銅メダルを取られていたと思うのですが、まずはこの結果をどう捉えられているか、今後はどんな結果を求めていくのかを教えてください。
阿:そうですね、結果としては素晴らしい結果を出してくれて、エイトでタイトルを取るという目標が残ってはいるのですが、チームの総合力としては本当に申し分のない結果だったと思います。
毎年ひと学年やめてひと学年入ってくる、組織はいわば生き物なので、去年の取り組みが正解だと思っていないんです。
先輩たちによる改善の繰り返しで去年の結果があるので、今のメンバーも変わることを恐れずに、積極的な部分を見せて欲しいです。変化が止まればそれは退化だと思うので、挑戦し続けて欲しいと思います。
また、部の中では部員も増えて競争が激しくなっていて、例えば全日本で3位(学生トップ)をとったクウォドはインカレでは3人のメンバーが変わり、その中の2人は部内選考に敗れてインカレに出られなかったりしています。
もちろんパフォーマンスが高い選手を選んでいきますし、「全日本が終わってからクルーを変えるんですか?」と質問を受けたこともあったのですが、それは監督が決めることではなく、あくまでその時に強い選手が試合に出るという考えです。
選手はどんどん成長しているので、それは抜かれることもあるし、部内でぶつかり合いもあったりします。監督としては最後は競技者としての評価はしっかりとしていくべきだと考えています。適材適所で柔軟に変化をさせる重要性を学生にも学んで欲しいと思っています。
コ:今の仙台大学の選手が全体的に、自発的に自分たちでチームを改善していこうとする組織になりつつあるのか、それとも阿部さんが目的を持って仕掛けられているかというと、どっち寄りになりますか?
阿:どちらもだと思います。やはり学年によっても様々ですし、そういった自覚を持って歩んでいる人もいれば、仙台に入ればなんとかなると考えて来た人もいるので、それは僕からお尻を叩くのと学生がしっかり引っ張っていく部分を見極めて指導することは意識しています。
仙台大学では「励まし合い」という一つのキーワードにしています。
自分で考えてやっている子にはあまり声をかけないですが、元気がなさそうだなという子には時には厳しく言ったり何のためにこれをやっているんだっけと声をかけたりすることもあります。
コ:なるほどです。
先日、仙台大学さんのチーム信条として「和して同ぜず」という言葉があることを伺ったのですが、どういう意味づけをして選手の皆さんに伝えられているのかをお聞きしたいです。
阿:創部の時の漕艇部長だった方が、僕がどのようにチームを作り上げていくかを悩んでいた際にこの言葉を教えてくださったんです。彼は東北大のお医者様で、大学時代はボート部ではなかったのですが、とても視野の広い方で、ハーバード大学に留学に行かれたりしていて、東北大のボート部の人も尊敬をしていたそうです。
もちろん言葉の受け取り方は変わっていっていいと思います。
一人一人が自分の強みを持って、それがチームのゴールにどれだけ役立てるのか。クルーの中でどう発揮するのか。まずは自分がしっかりすることで、チームが強くなる。チームのベースは一人一人にあると思います。
コ:仙台大学に入ったからもう安心だ、ではダメで、考え続ける必要があると。
阿:ボート部にかかわらず、入った先で「ここで何ができるのか」は必ず考えないといけないと思うんです。考えた選手は強いと思います。
いろんなことがあっても負けないと思いますね。
コ:仙台大学ボート部で活動をして、卒業したのちにボートを続けれられる方が多くいっらしゃると思います。そして特に仙台大学出身の方はご活躍されているイメージがあるのですが、
仙台大学でこんなことを学んだからこそ活躍できているのでは、と感じられていることはありますか?
阿:ぜひ本人たちに聞いてください(笑)。
私は、卒業したら相談を受けた時以外はほとんど干渉しないようにしています。と言っても、社会人で続ける選手には次のようなことを最後に伝えています。
人としての成長の話としては、本人にしかできない役割は必ずあると思っていて、どんな組織の中でも自分にしかできない役割を見つけれられれば、辛いことも乗り越えていけたり、競技者として成長できるということ。
もう一つはチームの先輩や後輩、同僚とミーティングの場でぶつかった時に、ボートについて理論立って話せることの重要性です。
ボートにおいては感覚と理論の話があると考えています。
感覚は自由に感じていいと思いますが、そこで何故その感覚になったのかをちゃんと考えることが重要です。
そして、知識をひけらかすのではなく、ぶつかったりする中でも自分の中ではしっかりと理論を持って解釈できることが大切だと思います。他の人が言うことに対して、感覚という答えのないことを探るのではなく、こんな理論で言っているのかなと考えて欲しいです。
もちろん感覚で話すことも大切です。ただ、感覚で話すと結論が明確ではないんです。何故その現象が起きたのかをしっかりと説明できるまで話し合って欲しいと思います。
コ:確かに、自分たちも現役時代を振り返ると、感覚だけで話し合っている時はなかなかうまくいかない時があったなと思います。
阿:学生の時はチームがうまくいっている時はそれで成り立ちますが、
社会人になると、我が強い人が集まる中で、立場の強い人が意見が通ってしまいがちです。そうなると雰囲気が窮屈になってしまうんですね。話し下手な人はしんどいと思います。
2. オリンピックへの期待
コ:今年はオリンピックイヤーです。ボート界として、どうしていくべきか、どうしていきたいなどの意見があればお伺いしたいです。
阿:大いに盛り上がって欲しいと思います。結果がどうであれ、オリンピックに選ばれてくる選手たちは違うレベルの選手だと思うので、ぜひ実際に目で見て欲しいと思いますし、日本ボート界としては、どこまでパフォーマンスが通じるかをチャレンジして欲しいです。
まだ出場権を獲得していませんが、前回のリオが終わってから選手たちはひたむきに今まで努力をしてきたと思います。
良くも悪くもポジティブな発言も、ネガティブな発言もあると思います。
ぜひ大いにディスカッションをして盛り上がって欲しいと思います。
また選手は、いい意味でプレッシャーを感じて欲しいです。その時の使命感はプラスアルファの力になることもあると思うのです。
自分のためだけでもない、応援してくれている人のためだけでもない。
ここで輝いちゃうぜと思いながら、日々の練習から、この一漕ぎでオリンピックが決まるんだと、思いながら頑張って欲しいです。
コ:ありがとうございます。この質問に付随して、オリンピックの見どころはどこにあると思いますか?
ただ漠然と見るのではなくて、世界を体験されてきた中で、海外の選手のこんなところを見るべきだというところを教えてください。
阿:私は、仙台の選手には「事前合宿を見よう」と言っています。普段どんなトレーニングをして、どんな生活をしているのかを見るのが、そこが面白いんだよと伝えています。実際に見られるかどうかは別として笑
あとは、会場のチケットを取れなかった人には、ぜひピクニックエリアに足を運んでいただきたいです。
通常のオリンピックだと、自分で好きに椅子を持って行って観れるエリアになっているんです。
そこで、ウォーミングアップの雰囲気を見たりなどして欲しいですね。
4年に1度、その舞台に立つ人が、自分をどう表現しているのかをぜひ見て欲しいです。
コ:最後になります。阿部さんにとってボート競技とはどんなものですか?
阿:人生を支えてもらっているもの、ですね。ライフワークだと思っています。
今後も何かしら自分ができることで、新しい選手が育って、ボート好きになれるように尽力したいです。
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編集後記
全3回に渡ってお届けした、阿部監督へのインタビュー。
いかがだったろうか。
計約2時間におよぶお話のなかで、現在ボートを漕ぐ選手、引退しボートからは離れてしまったOBOG、ボート界で奮闘する様々なレイヤーの方々、それぞれに刺さるメッセージがあったのではないだろうか。
今、ボート界には何かしらのわだかまりがあることに疑いはない。
これをいかにポジティブな方向に持っていけるか。
今こそ全てのボート関係者が一つになって乗り越えるべき山がそこにはある。阿部監督にいただいた言葉を胸に、我々コギカジも歩みを進めていく。(N)
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