LEGENDs. Vol.1 阿部肇監督 #1 日本ボート界へのメッセージ(全3回)

日本を代表して戦ってきた
誇り高き歴戦の戦士たちの
語られざるストーリー、想い、
そして伝説の記録。
それが、LEGENDs.シリーズである。

記念すべき第1弾は、日本でローイングに関わる者なら一度はその名を聞いたことがあるであろう人物、阿部肇氏。
厳冬の最中、北の水辺に腰を据える仙台大学艇庫へ我々は足を運んだ。

緊張で肩が張る我々を阿部氏は笑顔で迎え入れてくれ、さらに2時間にも渡るロングインタビューを実施させていただいた。

今回はその貴重なお話を全3回に分けて、皆さんにお届けする。

第1回は、「日本ボート界へのメッセージ」。

目次

  1. 1、ボート歴40年を迎える阿部氏が、日本ボート界に思うこと。
  2. 2、オリンピックへのエイトでの挑戦。
  3. 3、社会人選手たちへのメッセージ。

1、ボート歴40年を迎える阿部氏が、日本ボート界に思うこと。

コギカジ(以下コ):本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、阿部さんはボートに携られてそろそろ40年になると思います。日本ボート界全体として、変わったな/変わっていないなと思う部分、またこう変わって行けば、というところがあれば教えてください。

阿部氏(以下阿):まず、ここ数年の*世界選手権のポジションは少し残念なところがありますが、選手自体は努力をしていないわけではないと思います。
競技者というのは大学生でも高校生でも社会人でも、少しでもパフォーマンスを上げたくて時間を費やしているので、勝てない原因をそれぞれのコーチや日本ボート協会がどう受け止めて、舵を切りなおして、また世界に近づけさせられるかということは、もっと速やかに取り組んで欲しいところではあります。

私が初めて世界選手権に出場したのは1982年。その頃はモントリオール五輪で審判艇に抜かれるということもあって、メディアの人たちからも現実を突きつけられるような質問を受けていました。
別に批判をしているわけではないのですが、もう少し日本ボート協会は色々とオープンにしてほしいと思います。
いい情報は流れていると思うのですが、代表の活動の中で選手たちがどのような成長を辿っているのか、また明確に課題が整理されているのであれば、情報として出した方がいいと思います。
当たり前のことだと思うのですが、なぜ開示してくれないのでしょうかね。。
ずっと現場にいて選手を見ているので、自然消滅的になってしまったプログラムが今も走っているのか、選手たちはそのプログラムに乗る可能性があって、本当にそれに乗っていいのか?安心してもいいのか?成長していけるのか?という不安があります。
うまくいっていても、いなくてもちゃんと情報を今の選手に開示してくれればと考えています。
それがこれからに繋がるのではないかと思っています。
もしかしたら見えないだけでされているのかもしれないですが。

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*近年の世界選手権の主な結果
2019年 LW1x 銀メダル、その他最高位はLW2xの14位
2018年 LW2x 10位
2017年 LM4x  5位  

2、オリンピックへのエイトでの挑戦。

コ:19年シーズン、NTT東日本が叩きだした5分38秒のタイム。これについて阿部さんのお考えをお聞かせください。

阿:今回の結果は、今まで出せていなかった方がまずかったと考えています。彼らだったら、エイトの難しさや楽しさを学ぶことができれば、30秒前半までは出せると思っています。
5分38秒はもちろん立派なタイムですが、私は冷静にもっと上のタイムを出して欲しいと思っています。今の道具の技術の進歩や、選手のエルゴタイム・体格を考えればまだまだ行けると思うんです。

コ:我々からすると、このタイムならオリンピックに出れるのではないかと思っていたのですが、世界で戦うにはやはりもう一歩足りないのでしょうか?

阿:やはり、僕は彼らなら30秒前半を出せると考えています。彼らにももう少し明確にチャンスとして提示することで、頭の中がもっと明確になって、湧いてくるものー希望とでも言いましょうかーがあると思うのです。明確な夢は行動を生んで、そしてそれが希望に変わっていく。
彼らも目標を明確に置くことができれば、自分たちには何が必要なのかの知恵が湧いてくるはずです。
エイトでオリンピックに出ることは僕は反対をしていません。タイムを出すことは困難がつきまとうと思いますが、むしろ果敢に挑戦をして欲しいと考えています。

コ:そこはやはり協会の方針によるものと言えるでしょうか。

阿:そうですね。協会の中でも何か障壁になっているものがあると思います。計画を立てて、目標に向かっていると思いますが、時には発想を変えることも必要かと。「決めたからこうだ!」と枠にはまっていたら同じ結果しか出ないので、枠から一歩外れるように動いて欲しいなと思いますね。
選手側としては、決まった枠があることで行動を止めないで、「自分たちで変えるんだ」という意気込みで活動をして欲しいです。

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3、社会人選手たちへのメッセージ。

コ:今の現役の社会人選手たちに対しては思うことはありますか?もう少しこうするべきなんじゃないかなど。

阿:私はアイリスオーヤマの選手も見ていますが、本当によくやっていると思いますよ。
ナショナルチームから提示されたことに対して、素直に取り組んでいると感じます。
ただ、もっと余裕があればなとは思いますね。
「ボートも遊びも日本一」というキーワードがありますけれども、
目標に向かう時は、ガチガチになっていると目標に向かう際にはうまくいかないと思うので、
自分の考えやコーチの考えもあると思いますが、自分なりに自己肯定できる余裕を持って欲しいと思いますね。

コ:この前とある選手にインタビューに行ったんですが、社会人選手として今後活動していくことに若干の不安を感じるとの発言がありました。
大学生から社会人になった時に、ボートを続けたいと思える環境が少ないのではないかと感じるのですが、こちらについてはどうお考えでしょうか。

阿:コーチとの関係の中で、「スポーツの場でどう成長していくか」というところを、(競技者としての)若い時代にしっかりと身につけて欲しいと感じます。
日本において、スポーツというのは、体育・部活動の色が強く、選手とコーチのいい関係の前に、先輩と後輩であったり、部活動だけど実際は先生と生徒という中での部活の色が強く残っています。
競技スポーツの前に、「スポーツを楽しむ時間」があればいいのです。
ボートもそうあるべきだと思うのですが、だんだんOB・コーチの声があったりして、勝つことが正義で、負けたらしょんぼり見たいな感じですよね。
レースを見ているとそんな選手が多くて、それを見ていると私は寂しいなと感じています。
1年間、ゴールに向けて一生懸命やってきたからこそだと思うのですが、
なんのために勝つのか?勝ったらその先に何を目指すのか、どうありたいのか?のイメージがなければいけないんです。僕が担当しているチームには、このことを伝えています。
次の人生も含めて、「競技生活を通じて、最終的には人としてどうありたいのか?」を考えることが、「スポーツが人を育てる」という言説の大切なところだと思うんですね。
スポーツは決められたルールの中で、ものすごく厳しい勝ち負けがあるのですが、負けても自分たちが納得のいくレースができていれば、それは自分たちの中では誇りに思うべきだと思います。
少し話がずれてしまったのかもしれませんが、
今の若い選手には、ちゃんと自分がやりたいボートというものを頭の中において進んで欲しいなと思います。
他人からの評価のためにするものではないですよね。
ですから、コーチと「自分はどうなりたいのか」というところのコミュニケーションをきちんととって、
その中であれば結果がどうであれ、コーチといい関係でいれると思います。
なので、今の社会人の選手が不安に感じていることはすごく残念です。
人間誰でも不安じゃないですか。不安と確信は表裏一体で、うまくクリアできれば確信に変わるんですが、うまくいくまではみんな安心なんてしていないですよね。みんな勇気を振り絞って、自分はこれに決めたからやるんだと思ってやっている。
そこのコミュニケーションが選手とコーチの間で足りないと、より不安を煽るのでないかと思います。確信に変われば、選手は希望に満ち溢れて、チームにとっていい循環が生み出されれるのだと思います。

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阿部氏からいただいた言葉の数々。
今のボート界への憂いから、次の世代への熱いメッセージまで、これまで長きに渡りボートを愛されてきたが故に繰り出される重みのあるものだったのではないだろうか。

第2回では、阿部氏のボート人生について紐解き、
第3回では、「最強」仙台大学の強さの秘密に迫る。
ぜひあわせてご覧いただきたい。(N)



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