「突然舞い込んだチャンス、未知の世界に挑戦してみたかったんです。」
大学で初めてボートと出会った藤原さん(現 トヨタ紡織所属)は、なぜ社会人ボートチームで日本一を目指すことになったのか。大学の教授からは大学院進学を進められたにもかかわらず、選択したその理由とは。彼の軌跡から社会人でボートを続ける選択肢を紐解いていく。
藤原 貴裕さん
【経歴】
2013年 大阪工業大学ボート部 入部
2017年 トヨタ紡織ボート部 入部
【主な成績】
◆大阪工業大学
· 2014年 オックスフォード盾 [8+] 7位
◆トヨタ紡織
· 2018年 全日本選手権 [8+] 3位
· 2019年 中日本レガッタ [8+] 優勝
· 2019年 全日本選手権 [8+] 準優勝
· 2020年 全日本選手権 [8+] 4位
1. 大学時代 ー コックスとの出会い
ボート競技との出会いを教えてください。
大阪工業大学(以下:大阪工大)入学後、新歓期間中にボート部の試乗会でボートに乗って水面を滑っていく感覚が新鮮で興味が湧きました。高校時代は陸上の中距離種目をやっていたので、入部当初は漕手として入部し、エルゴやウエイトなどは他の漕手と一緒に練習をしていました。
秋ごろに行われる加古川レガッタの新人エイトが選手・コックスとしても初レースでした。決勝レース進出が目標でしたが、結果は順位決定戦で悔しかったですね。その後大学の戦績としては、2回生の時のオックスフォード盾レガッタで7位入賞があります。
大阪工大時代を振り返っていかがですか?
ほぼ経験者がいない、いたとしても1世代に1人いればいい方。そんなチームだったので、どうやったら勝てるのかを模索していました。僕は艇がどのような力で動くのか、どんなことが抵抗になるのかを理論的に考える方が好きなので、漕手へのアドバイスも精神論ではなく、体の動かし方への指摘が主でした。今思うと間違っていたアドバイスもありましたね笑。あまり大きな声では言えませんが。笑
トヨタ紡織に入部するきっかけはどんなものでしたか?
僕がトヨタ紡織でボートを続けるきっかけは、当時部を見てくださっていた方経由で今のチームがコックスを探していると伺ったことからでした。実は大阪工大に社会人チームでボートを続けるOBOGは今まで一人もいなかったので、身近な存在として意識したこともない社会人ボートチームは、未知の世界として興味があったんです。4年間ボートを続けた後は、大学院に進学するイメージでしたが、次第に社会人チームでボートを続けたいという気持ちに切り替わっていきましたね。
ボートを続ける選択に迷いはなかったですか?
当時は不安と期待で半々でした。もちろん、「本当に社会人チームでやっていけるのか」という不安はありましたし、4回生の秋に突然「トヨタ紡織へ就職してボートを続けようと思います」と研究室の教授に伝えたんですが、突然のことに驚かせてしまい。笑 確か大学院進学の書類提出期日まで残り数週間くらいの時期でしたね。3回生の時から進学の相談をしていたので、教授は相当びっくりしたと思いますし、それでも進学を勧められました。ですが、大学4年間ずっとボートで勝つことを考え続けていた中で、いつの間にか【ボート>大学院】に価値観が変化していることに気付いたんです。トヨタ紡織でコックスとしてボートを続けるという選択が舞い込んできた時には、まだボートで日本一を目指せるという期待が、僕の中で大きくなっていました。
2. 社会人チーム ー 迷いの新人時代を経たからこそ得られた、確かな自信
トヨタ紡織へ入部した当初のことを伺わせてください。
スピード感、そしてスピードへのこだわりの高さに驚きました。漕手のポテンシャルは皆高く、漕手を活かすも殺すもコックス次第なので、ボートにどう取り組むべきか悩んだ時期もありました。また、コールや指示が合っているのかも自信が持てずにいました。追い打ちをかけるように、トヨタ紡織のコックスとして初めて出場した全日本選手権では、敗復落ちという結果になり、このままでは本当にまずいと思いました。
入部当初は結果も伴わず自信もなかったという事ですが、翌年の全日本選手権では3位という結果でした。
僕の中で全日本敗復落ちの結果は、吹っ切れたきっかけともなりました。これ以上の悪い結果は無いだろうと。その年の冬のシーズンから今までずっと続けていることがあります。コックスとして同じ艇に乗っていない時も外から選手の動きを観察し、艇の動かし方について毎日細かくノートに書き残しています。そしてこういう時はこういうコールで立て直そうだとか、イメージを具体化していきます。さらに監督の漕手への指示なども吸収していくと、次第に監督と意見が一致してきたんです。監督と意見が合うことが多くなってくると、自分のコールにも自信が出てきました。自信をもってコックスができるようになったからこそ、その後の結果にも繋がったと思っています。
ボートの情報収集はどこでされますか?
YouTubeで海外チームの練習動画をよく見ますね。見る視点としては、艇の動かし方で自分のチームに活かせる部分が無いかを探してます。艇の運び方のテーマが似ていたり、新しい発見があると、漕手に共有してクルーでイメージをすり合わせることも多いです。レース動画も見るのですが、1艇の動きをいろんなアングルで観察できる練習動画の方が観察しがいがありますね。またスイスで開催されたワールドカップを現地で見る機会があったので、その時に直接見たことや感じたこと、ビデオで撮った内容をチームメンバーに共有もしました。
3.今後に向けて ー 日本一へ
今後の目標について伺わせてください。
目標は全日本選手権の優勝、日本一です。現状NTT東日本が5連覇中(2020年大会時点)ですし、僕としても過去3回全日本の決勝で負けています。振り返ってみると、スタートで出られてそのまま逃げ切られる展開だったので、スタートでいかに早くトップスピードに持っていけるかを課題としてとらえています。また、うちの漕手の仕上がり具合が非常にいいと感じているので、今年で負けたら勝てないくらいの強い気持ちで、今年の全日本選手権に臨みます。
社会人でもボートを続けようと思っている選手へメッセージを頂けますか。
僕自身社会人チームに入ってみて感じたことは、想像以上にやる気とそれに伴うある程度の実力があれば、チームの一員として前向きに受け入れてくれるということ。もし少しでも興味があるのであれば、練習の見学などは積極的に僕らに聞いてきて欲しいなと思います。ボートを続ける環境はあるんだということは知ってもらいたいです。また、個人的には他の社会人チームに同年代のコックスが増えてきたことがうれしくて、若い世代でボート界を盛り上げていけたらと思っています。
筆者後記
大学入学当初は大学院進学と専攻分野での就職を考えていた藤原さんだったが、いつの間にか生粋のボートパーソンとして勝負の世界にどっぷりはまっていた。
実は大学卒業後も選手として、または他の何らかの形でボートに関わっていたいと思うボートパーソンは多いのではないだろうか。
今回、藤原さんを通して現役選手として続ける選択・視点を届けられたらと思い取材をさせて頂いた。”不完全燃焼で競技を終えざるを得ない。ただ、今でもボートへの熱い想いを抱いている。” そんなボートパーソンへこの記事を届けたい。
(取材・編集 遠藤)
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