【東京五輪特集】荒川龍太選手 後編:自身の今後と”Japanese Rowing”

東京オリンピック日本代表の荒川選手へのインタビュー。
前編では、オリンピック出場までの道のりと、レース本番で荒川選手が感じたことについてお話を伺った。

後編ではオリンピックを終えたいま荒川選手が感じていることや、これからのボート界についての想いに迫る。

東京五輪を終えて

初めての舞台で、堂々の11位という結果でオリンピックを終えた。
更なる高みを目指す彼が、レースを終えて感じた世界との差とはなんだったのだろうか。

荒川選手
「海外の選手と比べて差を感じたのはスプリント能力でした。中盤のコンスタントの部分は戦える手応えがありましたが、スタートから離されたり、スパートで差し切られる展開も多く、ここ1番のスプリント能力では違いを痛感しました。自分は世界のオープン種目の選手と比べると、まだまだ体の線が細いと感じています。決して大きければ良いというものではありませんが、今後はスプリント能力を伸ばすためにも、体づくりにいっそう力を入れたいと考えています」

2024年のパリ五輪に向けては、出場種目なども含め全くの白紙とのこと。
しかし荒川選手個人としては、ペアとダブルが勝利に近いのではと考えているという。

その上で大艇で世界と戦うことの意義についてこう語る。

荒川選手
「大艇だと一度に世界の選手と戦う舞台に立てる人が多いのがメリットかもしれません。とにかく”戦ってみないと始まらない”という側面もあるのではと感じています。

自分自身も初めてオープンのレースに出場したときは、散々な結果でしたが、なんとかオリンピックに出られるまで成長できました。まずは戦って差を感じること。そこがひとつのスタートになると思っています。今後大艇でも代表活動が活発なれば、そういった経験を積める選手が増えていき、レベルアップにつながるのではと感じています」

そう語ってくれた荒川選手に「一番好きな種目は?」という質問を投げかけてみた。

荒川選手
「シングルで黙々と漕ぐのも好きですし、エイトでクルー全員で課題にアプローチし、一気に艇速が伸びる感覚も好きです。その全然違うアプローチにそれぞれの面白さがあると感じています。オリンピックの後はフォアなどに乗艇していて、クルーのコミュニケーションが艇速に結びつくことも、面白い点だなと感じています」

それぞれの艇に違った魅力がある。荒川選手の言葉を通してボート競技の魅力を再認識することができた。

またパリ五輪に向けては海外チームでの練習にも興味を持っているという。

荒川選手
「まだチームとして具体的に話が出ているわけではなく、あくまで個人的な考えですが、多くの代表選手が所属し世界最高のローイングクラブとも称されるイギリスのLeander Club(リアンダー クラブ)や、オリンピックの男子エイトで優勝したニュージーランドなどでの海外遠征に興味を持っています」

海外に飛び出し、新たな環境で更に成長した荒川選手をぜひ見てみたいと思う方も多いのではないだろうか。今後の荒川選手やNTT東日本のチームとしての練習にもぜひ注目したい。

なぜ漕ぐのか。アスリートとは。

今回の取材では、荒川選手がボート競技を始めた原点や、アスリートのあり方についてのご自身の考えも聞くことができた。

荒川選手
「ボートを始めたのは、大学の部活動の新人勧誘で「ボート部なら日本一になれるよ」と声をかけてもらったことがきっかけでした。それまで自分は何かで1番になったことがなく、”自分にはこれがある”と胸を張れるものがないと感じていました。1番になって自分を認めてあげたい、自分を好きになりたいという気持ちが大きな原動力になり、その想いで今も漕ぎ続けていると感じています。スポーツは突き詰めると自分のためじゃないと続かないと思うし、”誰かのために”だけだと、どこか嘘っぽくなるかなとも思っています」

その考え方は、荒川選手のアスリートとしてのあり方にも通じている。

荒川選手
「昨今コロナ禍で、”不要不急”という言葉が使われていて、ある時もしかしたらスポーツもそれに該当するのでは、と感じたことがありました。そして改めて、スポーツの意味ってなんだろう、アスリートとしてどうあるべきなんだろうと考えました。 “スポーツで感動を”という言葉があり、社会的にも感動を与えるのがスポーツの役割だと広く捉えられています。”感動”を売り文句にすると、社会の中での自分の意味みたいなものを見出しやすくなるので、つい使ってしまいそうになるのですが、選手自身が見てくれる人に”感動”を押し付けるべきではないなと感じています」

荒川選手
「ボートを始めたきっかけにも通じますが、スポーツをやる理由はやはり”自分のため”でないと続かないと思っています。もちろん僕自身も副次的に”周りの人へ” という想いはありますが、中心は”自分のため”じゃないと、嘘になるなと感じています。そして”感動して欲しい”と見る人へ期待を押し付けるのは、どこかおこがましさも感じてしまいます。

今後もあくまでも自分の持つ体力や技術を高める。そしてそれらを取り出してボートで表現する。そのことに専念したいと思っています。そういった観点でアスリートは画家や音楽家に似ているかもしれません。

自分は自分のためにボート競技と向き合い続け、それをどう受け取るかは見てもらう人に委ねたい。その結果として、感動してくれたり勇気づけられたりする人が生まれれば、とても嬉しく思います」

”Japanese Rowing”

最後に今後の日本ボート界についても想いを語って頂いた。

荒川選手
「日本のボート界に目を向けると、なかなか統一したトレーニングができていないことがひとつの課題ではないかと感じています。例えば現在の代表が取り入れているフランス式トレーニングでは、低レートを重視したトレーニングが特徴的ですが、それが各企業や学生クルーにまで浸透しているとはいえません。もちろんどんなメニューを行うかよりも、それぞれがどのくらい質高く打ち込んだかが大切という側面もあると思いますが、今よりも全国的に統一した練習を積むことで、より近い将来”Japanese Rowing”が確立されるのではと考えています」

またひとりのボート選手として目指すのは、”パイオニア”だという。

荒川選手
「今後は日本のボート競技におけるパイオニア的な存在になりたいと考えています。特に日本ではオープン種目はまだまだ未開拓の分野だと思います。世界の他の選手と比較して体の小さい自分が活躍することで、自分にもできると感じてくれる若い世代の選手が沢山出てきてくれれば良いなと思って漕いでいます」

荒川選手が今後の目標として語った”パイオニア”。
しかし、彼は現時点でもその言葉を体現し始めているのではないか。

陸上競技100mにおける「10″00」というタイムは、その突破への道のりの険しさから “10秒の壁” と称された時期があった。しかしひとりの選手の「10″00」突破をきっかけに、その後多くの選手が9秒台へ突入した。

21年2月に荒川選手がエルゴスコアで6分切りを達成した後、7月には同じチームの櫻間選手も6分切りを達成している。荒川選手は日本のボート競技における”壁”をひとつ壊したのかもしれない。その姿勢や影響力は既にパイオニアの域に達し始めているようにも思えた。


また引退後は、ボートとは全く別の分野に飛び込んでみたいと語る荒川選手。
自身でも「そうなれば、ボートは10年規模の遠回りになります」と笑いながら語ってくれたのが印象的だった。誰しもが経験できるわけではない、その壮大な遠回り経て、今後どのような人生を歩んでいくのだろうか。

ボート選手として、そしてひとりの人間として、今後も荒川選手から目が離せない。

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