特別企画「真髄」  第2回 競技用ボートの扱い方

オアズパーソン諸君。
君はRowingを知っているか。
「知っている」と思われたかもしれない。
漕ぎ方?しんどさ?楽しさ?美しさ?
そのくらいはわかってるさ、と。
いや、待つんだ。
君は本当にRowingのことを知っているか?
君が乗っているそれ、そう、「フネ」のことだ。
では諸君を真のオアズパーソンたらしめるべく、
特別企画「真髄」を始めよう。

世界的に有名なとある造船会社の輸入代理店に
お勤めのT.S.氏に、
数回に渡って寄稿していただく
特別企画「真髄」。
第2回は「競技用ボートの扱い方」。
知らない間に雑になっているやもしれない
「フネの扱い」について、
改めて学んで行こう。

ー ー ー ー ー

こんにちは、T.S.です。
今回は、意外と間違えている?ボートの扱い方についてのお話です。

目次

  1. 1. ボート内のドリンクボトル
  2. 2. ボルト、ナットの素材
  3. 3. ローロック部シャフトの角度調整
  4. 4. 出艇、揚艇時のオール
  5. 5. +ドライバーのサイズ
  6. ■おわりに

1. ボート内のドリンクボトル

ハードなトレーニングには水分補給が欠かせないと思います。
皆さんにおかれましても当然ボートの中にドリンクボトルを積んで乗艇されているかと思います。
先ずはこちらの写真をご覧下さい。

画像1

皆さんお馴染みボートのストレッチャー付近の写真ですが、クリア塗装がはげ上がり穴が空いている事が解ると思います。その原因はドリンクボトルです。
ボートは前後運動、間欠運動の為、ストップ&ゴー的な力が常に加わります。その為、艇内に積んだボトルは裸のままではガタガタとボートの中を暴れ回ります
当然ボートと擦れ、ぶつかり、艇体にダメージを与えます。
これがほぼ毎日、何年も続くと写真の様な状態になってしまします。
小さなダメージの積み重ねが、知らず知らず大きなダメージになってしまっているのです。
ドリンクホルダーが付いたボートも存在しますが、そうで無い場合で乗艇にドリンクボトルを積む際は、ボトルが動かないようにタオルで包むなど、動かないように工夫しましょう。

2. ボルト、ナットの素材

ボルトやナット、ワッシャーなどは、気を付けていても無くしやすいパーツです。ただマニアックな専用パーツではない為、ホームセンターで手軽に入手可能です。
しかし、ここで気を付けて頂きたい事があります。
それは素材です。
こちらも写真をご覧下さい。

画像2

ボルトが錆びていますが、ナットとワッシャーは綺麗なままです。この違いは何かというと、お題の素材の違いになります。
ホームセンターのネジ類でよく販売されている素材では「ステンレス」「ユニクロ」があります。
どちらも耐食性を持たせた鉄材ですが、以下の違いがあります。

・ステンレス
クロム、またはクロムとニッケルを含んだ鋼鉄で、いわゆる合金です。シンクなどに使われる耐食性の強い素材です。
・ユニクロ
鉄材に光沢クロメートというめっき処理を行った素材です。耐食性は強くありません

つまり写真で錆が発生しているボルトは、ユニクロのボルトです。屋外で水浸しで使用すると錆が発生します。塩分を含んだ水域ではすぐに腐食します。
ユニクロのボルトナットを交換パーツにチョイスしていますとたちまち錆が発生して、いざパーツをはずそうとした際にさび付いて外れない!なんてことが起こります。
腐食の度合いが強ければ、乗艇中に破損して危険な目に遭う恐れもありますので、なるべくステンレス製のものを使用しましょう



3. ローロック部シャフトの角度調整

要するに、ピンと呼ばれるパーツです。
この部分の角度調整は快適な漕ぎの為に非常に重要である事は理解しているかと思います。
ところがこの調整方法、間違えるとピンを壊してしまう恐れがあります。
みなさんの多くは、特に3点式リガーの角度調整を行う際、ピンに力を加えて曲げてているかと思います。これはどこを曲げているかというと、リガーを曲げているのです。ピンが曲がって角度が調整されているわけではありません。
ここを勘違いして、ウィングリガーでも曲げにかかってしまっている姿を見かける事がありますが、これをやるとほぼ確実にピンの方が曲がります。あんなにゴツいアルミの固まりはそう簡単に曲がりませんし、カーボン製のリガーはそもそも曲がりません。折れます。
ピンが曲がってしまうと、それはピンの故障です。パーツ交換が必要になってしまいます。
3点式にも言えるのですが、角度調整には、各ボートメーカーが販売しているピンウェッジをピンとリガーの接続部に挟むことを推奨します。
高さが上がってしまう事が気になったり、微調整がしたい場合は、薄いアルミの板を挟み込んで調整すると良いでしょう。

4. 出艇、揚艇時のオール

多くの水域では、桟橋を起点とした出艇、揚艇が行われているかと思います。
この時、無造作にオールを扱っていませんか?

画像3

この写真ですが、オールを桟橋に無造作に擦った結果起こってしまった摩耗です。
この程度でしたらまだ問題ないですが、一番マズいのがシャフトのネック部分に削れが発生しているパターンです。これはオールの強度を確実に落とします
ローイング中のフォワードのフェイズにおいて、オールのネックはオールシャフトの中では最も早いスピードで動きます。強度の落ちたネック部で、そのスピードのままブイを叩いてしまうなどの衝撃が加わると、たちまち折れてしまう恐れがあります。大変危険です。丁寧に扱いましょう。

5. +ドライバーのサイズ

リギングに欠かせないのは工具です。その中でもスパナや六角レンチ、トルクスなどは番手が決まっており、間違ったサイズの工具では適切にボルトナットを締め上げられません。
そして実は+ドライバーにも番手が存在する事をご存じでしょうか?
こちらの写真をご覧下さい。

画像4
画像5

同じねじ頭に対して、ドライバーのサイズが違う事が解るかと思います。
上の写真は3番のボルト穴に対して1番のドライバーで締め付けを行おうとしています。
対して下の写真は、ボルトもドライバーも3番同士のものです。
正しいのは下の写真なのですが、実は上の写真の様な使い方をしても、何となく締められてしまいます。ただし番手が合っていないので、お互いの間には隙間がありとても緩い状態です。これは強い力を加えた際、ボルトとドライバーが滑ってしまい、いわゆる「なめる」状態になりやすいです。それを繰り返すと、ボルトの穴もドライバーもダメージが加わり、潰れてしまいます。頭が潰れた事により、取り外しが困難になった事例を経験したことは有りませんか?適切に工具を使いましょう。

■おわりに

今回紹介した怪しい扱いは、ほんの一部です。
出来れば第2弾、第3弾と続けて行きたいと思います。
前回の投稿で書き記した通り、ボートは非常に繊細な作りをしています。
1節目と4節目に関係する事ですが、ボートを扱う際、音が鳴る行動は避けた方が良いです。大きな音は、間違いなく強い衝撃や摩擦などをボートやオールに与えている証拠です。逆に言うと一つの指標になるものなので、そんなところに気を付けながら丁寧に道具を扱って行きましょう。

※「真髄」シリーズのサムネイルの写真は、今年の10月にアメリカのボストンで開催されたHead of the Charlesでの写真です。※ 

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