関西国公立から日本代表へ 〜廣内映美選手インタビュー 前編〜

ポーランド最古の都市のひとつポズナン。2022年のWorld Rowing Cupの第2戦が6月16日〜19日に渡って行われた。今大会では、男子舵手なしペアで荒川・大塚組が4位に入賞するなど、日本勢の活躍も目立った。

今回取材させていただいた廣内映美さんもその日本代表クルーの一員である。今回の大会では2016年リオ五輪、2021年の東京五輪でも代表だった冨田千愛選手とダブルスカルを組みレースに出場した。

実は彼女は関西の公立大学の出身である。日本のボート界で活躍している選手は、埼玉の戸田漕艇場に艇庫を構える”戸田勢”の選手がその多くを占める中で、彼女の存在は非常に珍しいと言っても良いのではないだろうか。

取材前半では、廣内選手がボートを始め、そして明治安田生命の選手になるまでの道のりを教えてもらった。

今度こそ

廣内選手
「現在はフランスのベルサンという都市で合宿を行なっています。今回の合宿は5月22日〜7月12日を予定していて、6月の第2戦(@ポズナン)と7月の第3戦(@ルツェルン)と2つのワールドカップのレースに出場する予定です。練習している水域にはレジャー施設も併設されていて、現地の方々も非常に友好的な感じです。小学生くらいの男の子なんかは、すれ違うときに軽やかに挨拶をしてくれます」

ボズナンでのワールドカップ第2戦を数日後に控えた6月某日。大一番を控えているとは思えないほど、彼女の表情は柔らかく、現地の様子を教えてくれる声色も明るかった。練習直後だが疲れを微塵も感じさせないその様子は、心からボートを楽しんでいるように見えた。

廣内選手がボート競技を始めたのは大学入学後だった。中学と高校時代には水泳部に所属しており、ボート競技は未経験だった。

後に日本代表になる彼女の競技生活の第一歩は、大学の新人勧誘のイベントだった。初めてボートに乗った時、水の上を滑る心地よさに魅せられて入部を決めたという。新歓で一気にボートの虜になった彼女はボート部への入部を決め、大阪市立大学(現:大阪公立大学)でキャリアをスタートさせた。

そんな彼女にはボート競技を始めるにあたってひとつ大切にしている気持ちがあった。

廣内選手
「後悔したくない。という気持ちは人一倍強いと思います。私は中学高校時代に部活動で水泳をしていたのですが、その時は”自分には才能がない”と割り切っていました。でも周りを見れば私より遅く高校から競技を始めた選手が全日本でも活躍していたりしていました。その子ももちろん最初から速かった訳ではなく、努力して成長していました。だから自分だって努力次第で成長できるはずなのに、どこかで諦めてしまっている自分がいました。

“自分の可能性を自分で摘んじゃったんだな”
水泳を引退する頃には、そんなふうに考えていました。

だから大学生になってボートを始めた時、胸を張ってやり切ったと言えるくらい頑張ろう決めました。今度こそ後悔なく。1日1日を大切に過ごすんだと決めました」

そう語る廣内選手は、1回生の秋から本格的に艇庫に寝泊まりし練習を本格化させると、翌2回生のシーズンでは5月の朝日レガッタでクォドドルプルで3位に入賞。同年の第1回西日本選手権ではシングルスカルで1位になるなど、頭角を表しチームでも中心選手になっていく。

廣内選手が大学時代に練習を積んだ大阪桜ノ宮の大川

全力の私が続く

転機になったのは3回生の冬だった。第30回近畿マシンローイング大会に出場した廣内選手。
軽量級のエリートレースに参加し、7’26″2という好タイムで漕ぎ切った。その記録がその年の全国のマシンローイング大会で、堂々の第4位という結果だった。

その記録が企業の目にとまり、企業から選手としてスカウトを受けた。その時の率直な気持ちを思い出して教えてくれた。

廣内選手
「私もボートを続けて良いんだ。と嬉しく思ったのを覚えています。


当時、次のシーズンが大学生活最後の一年でした。大学生活を通してすっかりボートの虜だったので、どのような形であったとしてもボートは続けたいと思っていました。

でも自分の正直な気持ちとしては、ただボートを漕ぐだけではなく、”自分の全力でボートと向き合う”ということがしたかったんだと思います。そういう意味で、大学での引退を寂しく思う気持ちもありました。仕事をしながら今みたいに全力でボートに向き合うのは簡単ではないだろうなと思っていたからです。

だから実業団から声をかけて頂いて本当に嬉しく思ったのを覚えています。自分の全力の競技生活がもう少し続くんだと。
それから練習を見学させて頂き、明治安田生命でボート競技を続けることに決めました」

廣内選手は企業からスカウトされる前は大学院への進学を検討していたという。勉強や仕事は何歳からでもできる。でもボートは今しかできない。廣内選手はそう思ったという。その後、4回生のシーズンでは怪我にも悩まされた時期もあったが、全日本選手権ではシングルスカルで4位に入賞するなど素晴らしい成績を収める。そして大学を卒業後に明治安田生命の選手としてキャリアをスタートさせた。

選手が一番大切

廣内選手には、競技と向き合う際に大切にしている信条があるという。

廣内選手
「選手が一番大切。ということは私にとってキーワードかも知れません。代表コーチのギザビエさんも”選手が一番大切”という意味のことをよく言ってくれます。

大学から関西でボートを初めて、中学高校から初めて戸田にいる選手に対して”環境が違う時じゃないか” と浅はかに捻くれていた時期も実はありました。でも大切なのは環境じゃなくて、選手なんだと。改めてキザビエコーチからそういう言葉を聞いた時にも、自分が兼ねてから大切にしていた想いと近いものを感じ、改めて腑に落ちた気がしました」

関西の女子ローへ

また関西出身である廣内選手に関西で漕いでいる女子選手へメッセージを頂きました。

廣内選手
「自分のことをもっともっと誉めてあげてほしいです。そして大学から始めた方に伝えたいのは、それって決して負い目じゃなくて素敵なことだということです。新しい世界に自分から踏み出したことって本当に勇気ある行動だと思います。それに他の競技や部活を経験しているからこそ、伸び代も無限大だと思います。私はたまたま3回生の秋に企業のチームから声をかけていただきましたが、もしかしたらあなたなりのそんな時期が、もうすぐそこに迫っているかもしれません。

それからボートは本当にハードな競技です。
だから、”やっているだけで偉いんだ” そのくらい自分を認めてあげてもいいんじゃないでしょうか。ぜひ前向きに、謙虚に、一歩一歩一緒に頑張っていきましょう」

関西の公立大学から全国区の選手へと成長した

そう語る廣内選手は、代表合宿でハードな日々を送っていた。朝6時30分から1時間程度乗艇をし、朝食を食べて休憩した後10時から練習を再開。そして昼間の気温の高い時間帯を避け、夕方16時から再び練習を行なっており、なんと日に3モーションをこなしているという。

“ここはレジャー施設も兼ねているので観光客の方もいますけど、私はひたすら漕いで寝てって感じで、日本とやっていることは一緒ですね”
疲れをちっとも感じさせない口調で爽やかにそう語る。

家族に連れられて遊びに来たのだろうか。カメラ越しに離れた場所から子供の楽しげな笑い声が聞こえた。そのことに触れると、気を利かせてくれた廣内さんは外の景色に映像を向けてくれる。

画面いっぱいに広がる異国の景色を見ながら、”そういえばボートの話をする廣内さんも、目を輝かせて遊びのことを教えてくれる子供に似ているかもしれないな”
ぼんやりとそんなことを考えていた。

取材後記


今回もお読み頂きありがとうございました。毎日少しずつ増えていくページビューの数に本当に力を頂いています。いつもご愛読いただきありがとうございます。今後も皆さんに読んで頂けるよう頑張っていきます。

廣内さんの選手が一番大切。という言葉が自分にとっては非常に印象的でした。

「自己責任でしょ」という冷たさは感じませんでした。それよりも、いつだって自分次第で、どこまでも行けるんだ。という自由で力強いメッセージをもらった気がしました。
自分ごとになりますが、今私は書くこととは全然違う仕事をしながら、コギカジのメンバーとして記事を書いています。書くことを仕事に出来ていない自分を否定する気持ちもあったのですが、廣内さんの言葉を聞かせてもらって、そんなことより自分次第じゃないか。とモヤモヤした自分の気持ちを、爽やかに吹っ切ることができました。

日々生きているだけでも、いろんな大変なことや嫌なこともありますよね。
でも廣内さんの言葉はそういういろんな事情から、自分を解放してくれる力があるなと思いました。外部の環境や、周りの人から良い影響を受けることもある。でも時としてそれらは悪い影響を運んでくることも。そんな時でも、今、ここで、頑張っている自分自身が全てなんだ。そう思えば、どんな状況でも頑張っていけるなと、そんなメッセージを勝手に受け取りました。

廣内さんのメッセージは、現役のボート部員のみならず、かつてボート部で過ごして、今は社会で頑張っている同世代の方の胸にも自然と染み込んでいくんじゃないか。そうなったら良いなと思いながら、編集させて頂きました。

次回の記事後編では、廣内選手の明治安田生命でのキャリアを深掘りして伺いました。代表選手になるまでの道のり、そして競技生活で辛い時どう乗り越えるかなど、その考え方を教えてもらいました。ぜひ記事後編もご覧ください。
(取材・編集 原田)

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